京ちな9月13日【未完】

タイトル案
あなたが嫌いな十三カ月
ちょっとだけ嫌いなひと
プロローグ
プロローグ、お姫さま
 この世界には三種類の登場人物がいる。王子さま・お姫さま・魔女。王子と姫は愛し合い、魔女は二人の邪魔をする。
 幼いころからちなつはずっと自分がお姫さまになるために生まれてきたのだと思っていた。王子と結婚して幸せになる物語のなかの姫はいつだってちなつの憧れだった。綺麗なドレスもガラスの靴も王子さまのキスも全部自分のために用意されているのだと信じて疑わなかった。いつか王子さまと出会って物語が始まる。中学校に上がるまでの十二年間はその準備期間、長いプロローグ(のはず)だった。
 中学一年の春、ちなつは長年の夢が叶って本当の王子さまに出会えた。強く願えば夢は叶う。だけどたったひとつの誤算は、王子さまの隣に既に一人のお姫さまがいたことだった。サラサラの金色の髪に青い瞳に、太陽もかすむような輝く笑顔。彼女はちなつが思い描き続けてきた姫そのものの姿だった。
 だから、このお話は、吉川ちなつがいかにして姫となることを諦め、魔女の道を選んだかについての物語である。
好きになること、嫌いになることは勝負
 ひとは誰かを好きになるために生まれてくる。というのは全然言い過ぎで本当は誰のことも好きにならなくても人間はちゃんとまともに生きていけるのかもしれない。でも私は誰かを好きになるのが好きだし、誰かを好きでいるそのときにこそ、生きている・存在していると強く感じる。あるいはそれは誰かを嫌いになるときも。誰かを嫌いになるそのとき、相手のトゲトゲとした輪郭がそこにあるのを感じ、同時にその感触を通じて、私自身の輪郭がここにあるのを知る。生きること、好きになること、嫌いになること。それらはすべて一体のものとしてある。好きであること。嫌いであること。それが私にとっての宇宙の(ほとんど)すべてだ。
誰が好きなのか問われる
 たとえば大好きな先輩がいる。
 そのひとはいつも私のお茶を喜んで飲んでくれる。
 私のテストの成績がよかったことを優しく褒めてくれたりする。
 いつも穏やかに微笑んでいて、大人っぽくて、可愛くて、私の憧れな先輩だ。

 たとえば先輩が大好きだって私の気持ちをいつも聞いてくれる友達がいる。
 私の恋をいつも応援してくれてる。
 私が先輩と楽しくお話できたりしたら、そのことを自分のことみたいに喜んでくれて、私がなにか悩むと親身に励ましてくれる。
 ちょっとおっちょこちょいで、おちゃめなところもある。私は彼女のことも大好きだ。

 たとえばちょっと苦手な先輩がいる。いつも私にちょっかい出してきて、うるさいって言ってもなかなかやめてくれない。
 思えば最初に出会ったときから最悪だった。この人とは絶対に合わない。そう思った。
 でもいつからかそんな先輩のことも、そう悪くないんじゃないかと思うようになった。
 先輩にだってあんがい、いいところもある。
 すこしうるさいところはあるけど、性格だって決して悪くない。
 この人がいつも元気にはしゃいでいるのは、周りのみんなに笑顔になってほしいからなんだって、少しづつ気づいていった。
 たまに空回りすることもあるけど。むしろしょっちゅう。
 だから、今でもちょっと苦手だけど、苦手なままなところもあるけど、先輩のことははっきり嫌いとは言えない。かもしれない。
 だめ、やっぱりまだちょっとだけ嫌い。

「それで結局吉川さんは誰が好きなんですの?」
 と、向日葵ちゃんが問う。
 私はうまく答えることができない。
公園、京子とちなつ
「私がさー、もしかっこよくてめちゃくちゃやさしい先輩だったら、ちなつちゃん、私のこと好きになっちゃうかなー」
 京子先輩はやっぱり嫌いだ。
「いや、現に私はかっこよくてめちゃくちゃ優しい先輩なんだけどさ、おまけにかわいいし」
 こういうこと臆面もなく言えるところとか。
「あ、ちなつちゃんジュース、サイダーでいい?」
 あと、もう自分の分も含めて二本購入済みのサイダーを押しつけてきながら、無意味に確認するところとか。ていうか有無をいわさずに他人の分まで飲み物を買ってきて、代金を受けとろうとしないところも嫌い。ちなみにサイダーは大好物。でも、京子先輩の前でサイダーを飲んだことなんて、一回しかない。そういう細かいこと覚えてるのもむかつく。
「なんかさ、私サイダーって昔だめだったんだよね。あ、今は好きだけどさ。ピリピリして痛いしさ、妙におなかいっぱいになるし。今はそこが良いんだけどね」
 と、言いながら、自分でもどうでもいいことを話していると思っていることが表情からばればれの京子先輩は普段より上ずった声で動揺みえみえで、これならあんがいつけいる隙があるかもしれないと私は思った。
「そういえばちなつちゃんとふたりで遊ぶのっていつぶりだっけ? いつも四人だからあんまりふたりでってないよね。えっと、最初がクリスマスのデートの時で――」
「いいかげん本題に入ったらどうですか」
 いつまでも終わらない先輩のむだ話にあきれて私は言い放つ。先輩の動きがピタリと止まってなんだか情けない表情になるが、それを可哀想に思うほど今の私はやさしくない。そう、私はやさしくないのだ。
 妙に狭い公園の空を見上げて、私は「来るんじゃなかったかな」とぼやく。休日に私をこんなところに呼び出した張本人である京子先輩がまたピクリと震えるが、私はそれに構ってあげる気持ちにもなれず俯いてベンチの下の地面を三回つま先で蹴る。この公園も、ベンチも、昔はもっと大きかったのに、今では小さくて、京子先輩とふたりでいると窮屈なくらいだ。なにもふたりでこんなところに仲良く肩を並べて座っていなくちゃいけないこともないはずなんだけど、なぜかこうしてふたりでくっついて座っている。なんとなく先に動いたら負けなような、そんな子どもっぽい意地が湧いてきて、私はいらだちをこらえてベンチにとどまった。
 だというのに気配を感じて顔を上げると、いつの間にかベンチを離れた先輩が私の前に立ちはだかって真面目な顔で私を見下ろしていた。私は先ほど抱いた先に動いたら負けという思い込みと矛盾するようだけど、京子先輩に先手を取られたことで敗北したような気持ちにさせられた。油断だ。私は先輩の槍のような視線をつきつけられて身動きできなくなった。
 勝負。そう、これは勝負だ。私と京子先輩との。
「ちなつちゃん」
 澄んだ声。本題が始まってしまったのだ。私は次の言葉を待ち受ける。ここは敵地。私は闘技場に放り込まれた剣闘士。だったら受けて立ちましょう京子先輩。あなたの武器を見せてください。あなたが鋭い槍で襲いかかるなら、私は千の刃でそれを捌きましょう。
「私、結衣に告白されたから」
 最強の一撃。
 そう言った京子先輩の顔はもう情けなくなんかなくて、むしろかっこよくて、めちゃくちゃかわいくて、本当にいやになる。
 その顔、大っ嫌いです。
回想モード
 私と京子先輩がなぜこうなったのか。
 話は少し前に遡る。
中間テストの成績発表、ちなつは3位
 中学二年生の春。春というにはもう遅いけど夏はまだずっと先にある季節。ある月曜日の朝。
 その日、私は生まれて初めて、テストですごく良い成績を取った。もちろん、私は馬鹿じゃない。むしろ頭は良い方だと言っていい。だからそれまでだって良い成績くらいとったことがある。でもそれはあくまで「良い」成績で、「すごく良い」成績ではない。
 学校の正面玄関から入ってすぐの突き当りの掲示板に、先週受けた中間試験の成績上位者が貼りだされていた。
「ちなつちゃん、すご~い!」
 ざわざわとした廊下にあかりちゃんの明るい声がひときわ高く響いた。
「うん」と私は頷く。褒められたので一応「ありがとう」とお礼も言っておく。
 だけど、それ以上なんて言えばいいのかわからない。こういうのって苦手だ。どういう態度でいればいいのか、わからなくて落ち着かなくなる。我がことのように喜ぶあかりちゃんの顔を見るのが照れくさくて、私は廊下の掲示板を見上げた。掲示板には先週の中間試験の上位陣の名前が貼りだされている。「吉川ちなつ」と私の名前がある。一位。ではない。
 三位 吉川ちなつ…475点。 
「三位かあ」
 先ほども言ったように、そんな好順位を取ったのは私にとって初めての経験だった。だけど、三位か。
 ――先輩は一位取ってるんだろうな。
 そう思うと、私には素直に喜べなかった。先輩と私なんて関係ない。学年だって違うし、成績で張り合おうとするなんて愚かなことだ。私にはそういう趣味はない。そうやって自分に言い聞かせてみても、溶媒のなかに溶けきらない物質のように、私のなかには処理できない不思議な感情が残った。
あかりに二人のことを訊く。「結衣ちゃんと京子ちゃんは変わらないと思うよ」
「ちなつちゃん、どうかした?」
「なんでもない。教室行こ?」
「うん」
「そういえばさ」教室へと歩きながら私は、なるべく何気なく聞こえるように言った。「今日も、先輩たち、一緒に登校できなかったね」
「うん」とあかりちゃん。「結衣ちゃんが遅れるから先に行っててって」
「うん、私のとこにも連絡来てた」
「明日はきっと結衣ちゃんも一緒に登校できるよ」
「京子先輩は――」
「京子ちゃんも結衣ちゃんと一緒だって」
「そっか。京子先輩、また結衣先輩のおうちに泊まったんだ……」
「ちなつちゃん?」
「最近、京子先輩が結衣先輩の家に泊まる回数、多すぎると思わない?」
「そうかなあ。いつもと変わらないと思うけど」
「変わるよ! ていうか増えてるもん! 私、統計とってるんだよ」
「統計?」
「私の知るかぎり去年の後半は京子先輩が結衣先輩のお家に泊まるのは月に二日半が平均だったのに、新学期になってから五回も泊まってるもん! 二倍よ、二倍! 月に五回も結衣先輩とお泊りだなんて……」
「えっと、また皆でお泊り会しようね」
「それ、慰めてくれてるの? ていうか京子先輩ばっか結衣先輩と二人っきりでお泊りなんて、うらやましい、ねたましい!」
「結衣ちゃん、お願いしたら泊めてくれると思うよ?」
「それは分かってるけど……。ねえ、あかりちゃん、正直に聞かせて」
「なぁに?」
「私って可愛いと思う?」
「ちなつちゃんはすっごく可愛いよぉ」
「ありがと、元気でた。じゃ、もひとつ真面目な話。最近、京子先輩と結衣先輩、近すぎると思わない? お泊まりのこともそうだけど、やけに一緒にいるというか、物理的に近すぎというか……先輩たちは同級生だし、幼なじみだし、なかよしなのは知ってるけど、それでも前よりずっと仲が良い感じがするの。あかりちゃん、気づかない? 先輩たちから何か聞いてたりしない?」
「あかりは――京子ちゃんも結衣ちゃんも、前と変わらないと思うなぁ」
「そう……」
 あかりちゃんが言うならそうなのかもしれない。お泊まりが多いのもたまたまで、二人の距離の近さに意味なんかなくて、先輩たちの奇妙な親密さなんて恋する乙女のナーバスな神経が見せた幻覚で、本当に何もないのかもしれない。だけど、それでも私はまだモヤモヤし続けていた。私の中の乙女センサーが警報を鳴らしている。このモヤモヤを見逃すな。これは危険のシグナル。何かある。ここには何かあるって。
ひまさく喧嘩。向日葵と櫻子の仲がよくなっている。
 教室の手前にたどり着くと、誰かが言い争いをするような声が聞こえた。
「あーもう、向日葵はうるさいっての」
 櫻子ちゃんだ。それで言い争いの相手も検討がついた。教室の引き戸を開けると予想通りの光景が広がった。櫻子ちゃんが向日葵ちゃんと喧嘩している。
「むう~っ」
「……」
 櫻子ちゃんと向日葵ちゃんは手押し相撲でもするみたいにお互いの手のひらをがっちり掴んで押し合っていた。
「おはよう、櫻子ちゃん、向日葵ちゃん。今日はどうしたの?」
 あかりちゃんは、お互いに睨み合っていて私たちが教室に入ってきたことにも気づかない様子の櫻子ちゃんと向日葵ちゃんに声をかけた。一年間クラスメートをやっているうちに、いつの間にかあかりちゃんは自然と二人の仲裁役のような存在になっていた。
「聞いてよあかりちゃん、向日葵ったらひどいんだよ!」
「櫻子がバカなんですわ」
「あー! またバカって言った!」
「バカをバカと言って何が悪いんですの? 櫻子のバカさ加減には呆れてものも言えませんわね」
 喧嘩はいつものことだけど、今朝はいつにも増してヒートアップしているようだった。あかりちゃんはまるで自分が叱られてるみたいに縮こまっていた。
「ストップ、二人とも」櫻子ちゃんがさらに向日葵に言い返す前に私は二人を止める。「ちょっとボルテージ落として。あかりちゃんがびっくりしてる」
「あら、失礼いたしましたわ赤座さん、吉川さん。おはようございます」
「ううん。おはよう、向日葵ちゃん。それで、どうしたの?」安心したというように胸をなでおろすようなジェスチャーをして、あかりちゃんは言った。
 向日葵ちゃんは一呼吸置いてから事情を話し始めた。「進路希望調査票ですわ。今日までにちゃんと考えて書いておくようにって何度も念を押しましたのに、この子ったら何も書いてないって……」
「だーかーらー、先生に出す締切はまだ先なんだから今度でいいって言ってるだろ!」
「そうやってなんでもすぐ後回しにするの、櫻子のよくないクセですわ。そんなことを言って、いつも宿題をギリギリまでやらないんだから」
「進路調査は宿題じゃないもん。だいたいなんでそんな私のこと気にすんだよ」
「同じ生徒会役員として櫻子がおかしなことを書かないか心配なだけです。だからちゃんと確認してあげようと――」
 今にも櫻子ちゃんが反論しようとするところへ「そっかあ!」というあかりちゃんの明るい声が響いた。二人は豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔であかりちゃんを見た。「向日葵ちゃん、櫻子ちゃんと同じ学校に行きたいんだよねぇ。それで櫻子ちゃんがなんて書いたか知りたいんだ、ね?」
 わあ。
 あかりちゃんったら核心つきすぎ。
 図星を指された向日葵ちゃんは真っ赤になって喉からヘンな声を出している。
 櫻子ちゃんは不思議そうな表情でそんな向日葵ちゃんと、あかりちゃん、それからついでに私の顔を順番に何度か見比べる。
「向日葵。高校、私と同じとこ行きたいのか?」
 櫻子ちゃんのストレートな問いかけに向日葵ちゃんはこれ以上ないというくらいに赤くなる。
「ごめん」と櫻子ちゃんが言った。「私、高校のこととかよくわかんないから、後で教えてよ」
 櫻子ちゃんの意外な態度に一瞬向日葵ちゃんは呆気にとられていたようだったが、すぐに「最初からそのつもりでしたわ」と言って、照れた顔を隠すみたいに早足で自分の席へと歩いて行った。

「びっくりした。櫻子ちゃんが先に謝るなんて」
 自分たちの席に座ってから、私はあかりちゃんだけに聞こえる小声で言った。
「そう? 最近はいつもそんな感じだよ?」
「そういえばそうかも。あの二人、なんか雰囲気変わったよね。喧嘩ばかりなのは相変わらずだけど、無駄につんけんしなくなったというか。生徒会役員選挙の頃からかなあ」
「そうかなあ」とあかりちゃんはなぜかうれしそうな顔で言う。「櫻子ちゃんと向日葵ちゃん、最初に会った頃からずっと仲よかったよ」
東先生のお手伝い。逃れるためのテスト勉強。進路相談。アドバイス。
 お昼休み、私は私たちの担任でもある美術の東先生に頼まれて教材を資料室に運ぶ仕事を手伝った。資料室は他のクラスからは少し離れた場所に位置しているため、お昼休みの喧騒は聞こえてこない。
「手伝って貰っちゃってごめんね吉川さん。遊びたかったでしょ?」
「いえ、このくらいいいですよ」
「そういえば、吉川さんすごいわね。中間テスト。うちのクラスでは吉川さんが一番よ。よく勉強したのね」
「ああ、あれは……はい、ありがとうございます」
「あら? 嬉しくなさそうな顔ね」
「いえ。嬉しくないってわけじゃないんですけど……ただ暇だったから教科書読んでただけで、熱心に勉強したってわけじゃないんです。だから実感がないというか」
 嘘だ。
 実際、テスト期間前の私はよく勉強した。普段の倍以上は勉強していたと思う。でもそれは勉強がしたかったからじゃない。ただ、結衣先輩のことを考えたくなくて、他のことで頭をいっぱいにしていたかっただけなのだ。そしてそのとき私にできることは勉強くらいしかなかった。
 そうだ、私は結衣先輩のことを考えたくなかったんだ……
 そんなこと、結衣先輩のことを考えたくないなんて先輩と出会ってから初めてだった。結衣先輩のことを考えると、どうしても結衣先輩と、京子先輩のことを考えてしまう。それがきつかった。だから勉強に逃げたのだ。
 そういうわけで、今回のテストの結果も、私にはなんとなく不純なものに思えていた。
「吉川さん、コーヒーでも飲んでいく?」
「え?」
「インスタントだけどね。手伝ってくれたお礼。椅子座ってて」
 そんな、いいです。と断る暇もなく先生は手早くお茶の準備を始めてしまった。私は言われたとおり椅子に座ることにする。
「砂糖いる?」
「えっと、わかんないです。コーヒーあんまり飲まないので」
「あら、そうなの?」
 私は先生の出してくれたカップを持ち上げ、やけどしないようにそっと口をつけた。
 不思議な味が口の中に広がった。
「どう? 初めてのコーヒーは」
「よくわかんないです」
「ふふ、そうよね」
「誰かの淹れてくれた飲み物を飲むのって、久しぶりです」
「」
教師・親からの進路についての問いかけに答えられないちなつ。結衣たちと同じ高校に行きたい気持ち、結衣は自分を振り向いてくれないだろうという諦め。
結衣に成績のことを褒められる。よろこぶちなつ。しかし、結衣と京子のやり取りから、二人の仲を感じ取る。
京子とちなつの公園シーン、何度も挿入
京子の原稿を手伝う。京子から、漫画家になるという夢の話を聞く。「ちなつちゃんは夢ある?」お姫さまのことを考えるが、そうは言えない。自分には夢がないことに苦しむ。
結衣と京子がキスしているのを見てしまう。
県内の遠い高校に進もうかと考え始めるちなつ。ごらく部の活動を休みがちに。
ちなつの様子を心配した向日葵が相談に乗ってくれる。ひまさくが仲良くなった理由を訊く。「お互いに素直になったから。吉川さんも素直になってみては?」
素直に自分の気持ちに向き合うちなつ。決心をする。
京子からの挑戦。「結衣と付き合い始めた。」「おめでとうございます」
結衣も京子もあかりも好きだから、悔しいけど一緒にいたいと素直な気持ちを話すちなつ。進路相談を京子にする。「一緒の高校に行きたいです。そこで、また一緒にごらく部がしたいです」
京子が、昔友達だったあの子じゃないかという気がするちなつ。気のせいかもしれないが、思い込んだまま納得する。
どこに入れるか未定のエピソード
プロローグ、お姫様
 吉川ちなつはお姫さまになりたかった。でも本物のお姫さまにであってしまってからは、そんな幼い夢はただの夢になった。物語にお姫さまは二人もいらない。本物のお姫さまがもうこの世にいるなら、ちなつはそのひとになることはできない。ちなつはちなつがなるはずだったお姫さま役を奪った彼女のことがひどく憎くて、それで代わりに姫をいじめる悪い魔女になることにしたのだ。
プロローグ、かっこいい恋
昔から、恋をするなら格好良くありたいと思っていた。十二歳の春にとびきり格好良くて可愛いあの人と巡りあった私は、とびきり格好いいこいをするはずだった。京子先輩さえいなければ。
回想、その子
 放課後、ちなつは懐かしい人の夢を見た。ちなつには昔ひとりの友だちがいた。いつ、どこでのことだったのかわからないが、その子とはいつも一緒にいた記憶がある。
 その子とどのように知り合い友だちになったかちなつは覚えていない。その子の姿形も何ひとつ記憶にない。ただ、可愛い子だったということだけは確かだ。その子の具体的な容姿というとひとつも思い出せないというのに、ちなつには、その子が今も生きているなら、必ず美しく、綺麗に、より可愛く成長しているだろうという奇妙な確信があった。そしてそのことを考えると、腹立たしいような、なつかしいような、言葉に出来ないくすぶりがちなつの胸に生まれた。そのくすぶりは炎となって時折ちなつを突き動かす。ちなつにとってその子はあるべき「可愛さ」の象徴だった。ちなつは今でも、名前もわからないその子のイメージに向かって自分は進んでいるのだということを意識していた。

 その子はいじめられっ子だった。理由はわからないが、きっと可愛すぎたのだろう。ちなつはその子のことが嫌いだったが、その子がいじめられて泣いているのを見るのはもっと嫌いだった。自然にちなつはその子を守ってやる立場になった。その子のことが嫌いだったのに一緒にいた理由がそれだった。

 ちなつはその子に「チーちゃん」と呼ばれていた。

「チーちゃん、私ね、お姫さまになりたいんだ」
「ばかじゃないの」
「絵本のお姫さまみたいになりたい」
「ばかじゃないの」
「なれるかなあ」
「なりなさいよ」
「チーちゃん、応援してくれる?」

 応援しないなんて言えなかった。
 ちなつはその子のことが嫌いだった。でもその子の声と瞳にはちなつに「イヤ」とは言わせない力があった。その力はちなつだけが感じていたものかもしれない。

「応援するわよ」とちなつは言った。「あんたがあんたの王子さまと、素敵な恋ができるように」
茶道部室、ちなつと京子
 ちなつは誰かの声を感じて急速に夢から覚めていった。

「ちなつちゃん、起こしちゃった?」
 声は京子先輩だった。何故か不安そうな表情と声音でちなつの様子をうかがっている。
 ちなつは珍しい表情の先輩に迎えられて、一瞬ここが現実なのか新しい夢の続きなのかわからなくなった。

 まだ眠くてしょぼしょぼとする眼をこすって、ちなつは周囲を確認する。ここはごらく部の部室。私は中学二年生の吉川ちなつ。この金髪の人は歳納京子先輩。それだけのことを思い出してから――まだどうして先輩が自分のことを心配そうに見ているのかはわからなかったが――ちなつはとりあえず目の前の人に「おはようございます」と言った。
「寝てただけだったんだね。ごめんちなつちゃん、起こしちゃって」
「いえ、別にいいですけど」
「実はこないだうちのおばあちゃんが熱中症になっちゃってさ。ちなつちゃんももしそうだったらと思って……」
「私は京子先輩のおばあちゃんじゃありませんよ」
 憤慨したような声でちなつは言って、それから少し迷って「心配してくれてありがとうございます」と付け加えた。何はともあれ、こちらの身を案じてくれたのだ。礼くらいは言っておいた方がいいだろう。一応、礼儀として。
エンディング、京子とちなつ
 きらきらと世界がかがやいてとびちった。
 時間の糸が織り上げられ一枚の明るい布になった。
 記憶の中のあの子と京子先輩が一瞬重なった。
 天上のいちばん純粋なひかりを集めたような金色と、海のいちばん深い色を集めたような青。
 あの子はこんな顔をしていた。そんな気がする。
 それは
メモ
お姫さま要素いらないかも

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