あかりの手錠

即興二次小説 2014年10月
ジャンル:ゆるゆり お題:未熟な牢屋 制限時間:15分

「がしゃーん、京子ちゃんを逮捕しました」
頭の上から聞こえてくるそんな幼い声を懐かしく思った。
「京子ちゃんはもうお外には行けません。懲役百年です。無期懲役です」
無期と百年とどっちなのさ?って笑ってやりたかったけど、そうするときっとあかりはすごく機嫌を悪くするだろうから、やめておく。
金曜日の放課後、あかりの家に招かれた私はあかりに逮捕されてしまった。
私の右手は玩具の手錠で、あかりのベッドに繋がれてしまっている。
少し引っ張ってみるが、手錠はびくともしない。鍵がなくては逃げられないだろう。
「京子ちゃん、痛くない?」
あかりが心配したような声で聞いてくる。目だけ動かして見上げると、心配そうな、怒ったようなどっちつかずの表情のあかりがそこにはいた。
「へいき」と言ってやる。心配させてやろうかとも思ったけど、それはちょっとあんまり、かわいそうだ。
「そっか!」と嬉しそうにあかりは喜ぶ。あかりがうれしいと私もうれしいぜ。ほんとは、ちっちゃい玩具の手錠が手首に食い込んで痛いこととか、実はトイレを我慢してることとか、そんなことどうでもよくなる。いや、どうでもよくはない。
「ねえねえ京子ちゃん、これなーんだ」
あかりはポケットの中から、とっておきの宝物を取り出す。
「鍵」
「そうだよ、手錠の鍵!」嬉しそうに言う。「これをね、えーい!」窓を開けて遠くに投げた。ああ、さよなら鍵さん。私の自由。
「これでもう京子ちゃんは絶対に逃げられないね」
「なあ、あかりー」
「なあに京子ちゃん」
「おこなの?」
「おこじゃないよ」
「うっそだー」
「うそじゃないもん。だってね、京子ちゃん。あかりはすっごく怒ってるんだよ」
そう、あかりはすっごく怒っているのだ。私はそれを知っている。小さい頃からめったに怒ったりしないあかりだけど、本当に、本当に怒った時は、こんなふうに突拍子もないことを私にしでかすのだ。具体的には、手錠で逮捕するとか。はじめて逮捕されたのは幼稚園のとき、内緒にしててねと言われたのに、あかりがおねしょをしたことを結衣に喋ってしまった日だ。私が逮捕されるのも、3年振り12回めかな。うーん、懐かしい。中学に入ってからははじめてだ。
「うーんと、なんで怒ってるか聞いていい?」
「だって、だって、京子ちゃん、あかりのお誕生日に、うちに来てくれなかったんだもん」
「ごめん……でもそれは」
「うん、しってるよ。京子ちゃん、風邪引いてたんだもんね。でも、結衣ちゃんに看病されてたのはゆるせないよ」
ああ。
あかりが怒る理由はいつも一緒だ。
嫉妬。
仲間はずれにされたくない。
そういう気持ち。
「あかり」
あかりは泣いていた。
「ごめん。ごめん京子ちゃん。我儘言って」
「あかり、ちょっとこっちおいで。ぎゅっとしてあげる。動けないから、あかりが来て」
「ん……」
あかりはしゃくりあげながら素直に従う。
「ぎゅ」
「うー」
「あのね、私はあかりが一番好きだよ」
「うー、そんなこと言ってもらいたいんじゃないもん」
そうは言うけど、あかりは嬉しそうだ。
「好き。あかり好き。怒らないで」
「うーん。じゃあ、解放してあげるね」
あかりは言う。
「でもどうやって?」
「あ、鍵」

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