友情ノーチェンジ(りんぱなりん)

友情ノーチェンジ
2014/09/24
ブログの方にも載せたけど、こんなSS書きたいなあと思ってスケッチ感覚で書いたやつ。


私たちは間違っているかもしれない。
神様はこんなこと望んでいないかもしれない。
だけどもう選んでしまった。
私はまるで皆からはぐれてコースを外れてしまった長距離ランナーみたいに途方に暮れている。
だけどまだ走っている。立ち止まってはいないし、立ち止まることなんてできない。ひとりでもない。私の隣には今もまだ大切なあの子が併走してくれている。たぶん世界一大好きだったはずのあの子が。走っている。走り続ける。
並んで励まし合って、どれだけ走っても、私たちは同じゴールにはたどり着けないのだけど。

「かよちん、ごめんね。凛、ほかのひとが好きになっちゃった」
かつて世界一大好きだったあの子は、ふたりっきりになるとすぐ、そう告白した。
拳を握って、全身を緊張させて、イタズラを見つかった子どものようにふるえながら、言った。
私は、そんな幼なじみの様子を見ながら、瞳にいっぱい溜まった涙を見ながら、たぶん泣かないようにしてたんだろうな、とか、それはきっと恥ずかしいからとか、そういうのじゃなくて、私のことを思ってなんだろう、とか、夕暮れの教室の逆光のなかで見る彼女は、今までで一番きれいだな、とか、いろいろなことを思った。彼女は罪悪感にふるえている。恐ろしさにふるえている。私のきもちを傷つけただろうとか。私が泣くんじゃないとか。もう、ぜんぶダメになってしまうとか。今までのこと全部が崩れ去って消えてしまうだろうとか。私たちに未来はないってこととか。そんなことを恐れてふるえてる。けれど彼女は言った。そんな恐ろしい告白を、もうしてしまった。私はそんな凛ちゃんの勇気を愛した。[↑↓長い]
そう、こういうところ。
私が怖くて、なにもできなくて、戸惑っているとき。
凛ちゃんは勇気をくれる。
背中を押してくれる。
道を教えてくれる。
そういうところが、大好きだったよ。

「凛ちゃん」
「……」
私の声に、凛ちゃんは猫みたいにビクッと身体をふるわせる。
ごめんね、凛ちゃん。
ありがとう。勇気をくれて。
だから私もちゃんと言うよ。
「私も、ほかのひとのこと、好きになっちゃったよ」


【りんぱな結婚約束、簡潔に】
(おとなになったら、きっと結婚しようね)
(ずっと大好きだよ)
どちらから言い出したかわからない、子どもじみた約束。
私と凛ちゃんはそのころ世界一幸せだった。
……。
【ここまで】

「私も、ほかのひとのこと、好きになっちゃったよ」
「え?」
物音に驚いた猫みたいに凛ちゃんは一瞬固まった。
私はもう一度言う。
「私も、ほかのひとのこと、好きになっちゃったの。だから、私も、ごめんね」
昔好きだったひとに、今も好きなひとに私は言う。
好きなひとがいるの。それはもうあなたじゃないの。
「言えなかった。ごめん。隠してたの。ごめんね。凛ちゃんじゃないひとのこと、好きになっちゃったよ」

「……」
「……」
「あはは」
「ふっ、ふふふ」
「かよちん、これ笑うタイミングじゃないよ。あは、あははは」
「だって、凛ちゃん、ふ、だって、笑ってるよ」
「だ、だって、おかしんだもん、かよちん、顔。今、すっごい、マジにゃ」
「ひ、ひどいよ、凛ちゃ、ふ、あははは」

私たちはひとしきり笑った。
お互い、こんなひどいことを言ったのに私たちはまだ笑える。
こんな間違いをしてしまったのに、私たちはちゃんと友達のままでいられる。
凛ちゃんの存在が、声が、笑顔が、あったかくてうれしい。
笑いすぎて、涙があふれてくる。

「あは、はああ……笑った笑った」
「なんで笑ってたんだっけ?」
「かよちんが笑わすからだよお」
「ちがうよ凛ちゃんがー」
「あ、だめ、かよちんまた笑っちゃうにゃ」
「う、うん、ふふ」
「かよちん、なんか私たちって、悪いね。ていうか、すごいね」
「うん」
「りん、すっごい悩んだんだよ」
「ごめんね」
「同じタイミング?で、ほかのひとのこと好きになっちゃうなんて、ある意味りんたちって、やっぱり、なかよしにゃ。はは、すっごいにゃ」
「……だね」
「こおいうのも、失恋っていうのかにゃ」
「ん、わかんない」
「ね、ね。かよちんの好きなひとって誰? おしえて、おしえて」
「え、ええー? はずかしいよ」
「りん、すっごいこと考えたんだよ。りんとかよちん、もしかして同じひとのこと好きになっちゃってたりして」
「え? ええー!? そんなのってあるー?」
「りんとかよちんは仲良しだから、あるかもしれない」
「ん、んんー。まあ、可能性は、高いのかな」
「かよちん、そしたらさ、そのひとのこと、ふたりで奪っちゃおよ。ふたりでゲットして、なかよく半分こ!」
「凛ちゃーん……」
「だから教えてよ、かよちーん」
「凛ちゃんも、教えてくれたら、いいよ」
「じゃあじゃあ、せーの、で言いっこしよ? せーのっ」
「ま、待って!」

「真姫ちゃんにゃ!」
「に、にこちゃん!」

「まっ、真姫ちゃんのこと好きになっちゃったの!?」
「……かよちん、にこちゃんって。それマジにゃ? ここふざけるシーンじゃないよ?」
「ふざけてないよ! ひどいよ凛ちゃん!」
「りんの次が、にこちゃんって、なんかショックにゃー」
「好きになっちゃったんだから、しょうがないじゃん!」

……んー、まあにこちゃんは結構優しいとこもあるし、お姉さんだし? それにかよちんと一緒でアイドル好きだし、意外と合うのかにゃ? にこちゃんだけど、とかなんとか凛ちゃんはつぶやく。なんか、ひどいよ凛ちゃん。「でもにこちゃん、チビだよね。しかも、にこちゃんだし」ひどいよ凛ちゃん。

「……むー」
「あ、かよちん機嫌悪いにゃー」
「好きなひとの悪口言われたら、誰だっていやだよ」
「ごめんにゃー。なんか、りん、びっくりしちゃって」
「……凛ちゃんは。なんで真姫ちゃんのこと好きなの?」
「え、りん?」
「そーだよ! 私、覚えてるからね。入学したばっかりのころ、凛ちゃんが真姫ちゃんのこと『なーんかあのひとこわいにゃー』って言って、苦手そうにしてたの! なのになんで真姫ちゃんなの!」
「え、いや、だって、りん、りんは……」

凛ちゃんは空中にわたあめを作り出すみたいなおかしなジェスチャーをして、顔を真っ赤にした。
う、うわー。かわいい。

「……うん、まあ好きになっちゃったものは、仕方ないにゃ。好みはひとそれぞれにゃ」
「だね」
おたがい、デリケートなとこには触れないことにしましょう。
そうしましょう。

だけど、真姫ちゃんって、すごくやさしくて、友達思いで、凛ちゃんの繊細なとこにも気を遣ってくれるし、カッコイイし、凛ちゃんが好きになっちゃうのも無理はないのかな?
そう思う。
むしろ、私なんかのこと、凛ちゃんが好きでいてくれたことがあるのが不思議だよ。
あ。
なんか悲しい。

「かよちん。なんかへんなこと考えてない?」
「なにも」
「うそにゃー。考えてるにゃ」
「なーにも」
あやうく暗くなるところでした。
今のって、嫉妬なのかな。
私は案外、凛ちゃんのことまだ諦めきれてないのかもしれない。
にこちゃんを好きになっちゃったけど。
心のどこかは、恋の一部分は、まだ凛ちゃんを目指してる。
それとも、これはただの未練?
どうなんだろうね、凛ちゃん。

「ねーかよちん。ズバッとした質問、いいかな」
「ん、なあに」
「かよちんの好きな、にこちゃんが……かよちん、ほんとににこちゃんのこと好きなの? 嘘じゃない? ほんと?」
「凛ちゃん」
「う、うおっほん。にこちゃんが好きな子って、誰だと思う?」

核心に触れる質問きました。
好きなひとが、いつもどこを見てるかなんて、そんなの、わかるよ。
好きなひとが。

「……真姫ちゃんだと思うよ」
「りんもそう思うにゃ」
「だよね」
「思うにゃ」
「うん」
「じゃあじゃあ、真姫ちゃんが好きなひとは誰だと思う?」
「にこちゃんかな」
「まじ?」
「うん。まじだよ」
「じつは、りんもそう思うにゃ」
「やっぱり」
「思うにゃー」
「うーん」
「やばいにゃー」
「うーん!」

私が好きになった、にこちゃんは、真姫ちゃんが好き。
凛ちゃんが好きになった、真姫ちゃんは、にこちゃんのことが好き。
これって、勝ち目なくない?

「だけど、まだふたりは付き合ってないよね? ね、かよちん」
「う、うん。たぶん、私の知るかぎりでは……」
「そこでかよちんに、提案があります! にゃ」
「なんとなく、凛ちゃんの言うこと、わかる気がするよ。だけどね」
「協力プレイにゃ」
「うーん」
「りんは、真姫ちゃんを振り向かせるにゃ。かよちんは、にこちゃんをとっちゃうにゃ。敵なしにゃ」
「敵なし?」
「敵なしにゃ」
「敵なしだね」
「やる?」
「やろう、凛ちゃん」

ごめんね、にこちゃん、真姫ちゃん。
私たち、あなたたちのことが好きになったみたい。
だから、あなたたちの恋なんか叶えさせてあげないよ。
いいでしょ。
私たちの恋だって、かなわなかったんだもん。
人生に間違いはある。
恋したのに、かなわないこともある。
べつの恋をすることもある。

「行くよ、かよちん」
「どこへ?」
「戦勝祈願と、私たちの失恋記念会として、ラーメンを食べに」
「ラーメン……失恋……」
「行っくにゃー!」
「わかったよお」

凛ちゃんに背中を押され、教室をでる。
「ねえ、かよちん」
「なに、凛ちゃん」
「大好きだよ」
凛ちゃんは試すように私を見つめた。
大好き。大好きだよ。大好きだった。
うん、そうだね。私も大好き。
これからも変わらずに。
私たちは友達のまま、もうこれからずっと変わらない。
恋になるはずだったけど。恋だったけど。愛しあうはずだったけど。愛しあってたけど。
きっと変わらないだろう。
私たちは一番の友達のままでいるだろう。
この先で、私たちの道が交わることはないけど。
私たちはこれからも、並んで、励まし合って、走り続けるだろう。
胸にあふれるのは友情。
心臓をしめつけるのは、かなえられるはずだった私たちの夢の、後悔。
「うん、私も大好きだよ。凛ちゃん」
私は言った。
大好きだったひとに。
これからも変わらず大好きなひとに。
「大好き」
「大好きにゃ」

「ねえ、凛ちゃん。私たちって、悪い子かなあ。友達ふたりの恋を邪魔しようとするんだもん」
「りんとかよちんは最高のふたりにゃ」
「そうかなあ。そうだね。最高だよ、私たちって、きっと」
「それじゃ、行っくにゃ!」
「うん」

そして私たちは走りだす。
きっとかがやく未来に向かって。
とりあえず、今日のところはラーメン屋に向かって。

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