穂乃果「風の歌を聴こうよ!」

1 海未ちゃんの逃亡
2 海未ちゃん回路
3 穂乃果は家を出る
4 納豆のハチミツ和えを食べた犬、カカシ、真姫ちゃん
5 穂乃果、笑顔を指導される
6 かよちゃん姫
7 ことばの天使学
8 花陽ちゃん、これがその歌詞だよ
9 音楽博士
10 ごきげんの悪いパグ犬
11 蜂蜜
12 呪い
13 戦いのお昼休み
14 ことぱな/まきりん/えりのぞ/ほのにこ
15 パッパビドゥ
16 凛ちゃん、穂乃果を励ます
17 翼よ、これがLOVEの火だ
18 いひふへぅる
19 魂のいちばんおいしいところ
20 もう一度草原で
21 鏡
22 矢澤にこ
23 矢澤にこ
24 矢澤にこ
25 高坂穂乃果
26 矢澤にこ
27 エピローグ




 シアワセ行きのにこにこにー。

     1

「完璧な文章などといったものは存在しないんですよ。完璧な絶望が存在しないように。」
 穂乃果がお母さんのおなかにいるころに知り合った幼なじみは穂乃果に向かってそう言ったんだよ。
 穂乃果がその本当の意味を理解できたのは海未ちゃんが作詞のスランプから逃げるために文字通りに逃亡しちゃった後だったんだけどね。
 すくなくともそれをあるしゅのなぐさめとしてとることもかのおだったんだ。
 ファイトだよ。

 日曜の夜に鳴り響く不吉なベルの音。
 海未ちゃんからの電話はいつも唐突なんだ。

「そういうことです、穂乃果。私は山へ逃げます。」
「う、海未ちゃんどういうこと?」
「ごめんなさい。私はもう耐えられません。」
「海未ちゃん大丈夫?今どこにいるの?」
「穂乃果にお願いがあります。今、真姫とμ'sの新曲をつくっているのですが、私には歌詞が書けそうにありません。そのことをみんなに謝っておいてください。あるいは……」
「あるいは?」
「いえ、なんでもありません。それではさようなら。みんなによろしく。ことりによろしく。」
 電話は乱暴に切れたよ。
 穂乃果は呆然として穂乃果の携帯を見つめたけど。
 穂乃果の携帯も穂乃果とおんなじくらいびっくりして。
 なんて言えばいいかわからないみたいだった。


「どうしよう雪穂!」
「なに、お姉ちゃん? ひょっとしてまたフィアット500で公園のフェンスを突き破っちゃった?」
「海未ちゃんが山に逃げちゃったんだよ!」
「3か月ぶり18回目だね。逃亡。」
「落ち着いてる場合じゃないよ!海未ちゃんがいないとμ'sの新曲が完成しないじゃん、どうしよ!」
「なんで海未ちゃんがいないとμ'sの新曲が完成しないの、お姉ちゃん?」
「μ'sの歌詞は海未ちゃんが書いてるからだよ!ああ、海未ちゃん今度は何週間で帰ってくるのかな?」

 穂乃果の幼なじみ海未ちゃんはふだんはクールで頼りになる女の子なんだけど。
 ドロドロに溶けたミミズの脳みそみたいに「もにゃもにゃ」したものを頭のなかにいっぱい抱えていて。
 それでときどき気が狂って山に逃亡しちゃうクセがあるんだ。
 去年は1年間で7回も逃亡したもんだから、出席日数がやばくて、進級もギリギリだったんだって。
 やれやれだよ。

「なんだそんなことか。」
「そんなことじゃないよ。私にとっては一大事だよー。」
「代わりにお姉ちゃんが歌詞を書けば解決するじゃん。」
「なるほどその手があったか。」

 妹の雪穂は穂乃果よりふたつも年下なのに、いつも穂乃果に冷静なアドバイスをくれるんです。
 自慢の妹だよ。
 えっへん!

 ひょっとして、海未ちゃんも穂乃果にそれをお願いしたかったんじゃないかな?
 と思って、穂乃果は海未ちゃんにメールしてみます。

  『あるいは』、穂乃果が作詞をしてくれたら助かる?

 17秒で海未ちゃんからの返信が来ました。

   にゃー(ネコの絵文字)

 うーむ。

「海未ちゃんはなんて?」と雪穂が聞きます。
「わかんないけど、否定はしないみたい。」
「じゃあきっとそういうことなんだよ。」
「そうだね。そうと決まったらさっそく書きはじめるね!私がんばるっ!」
「がんばってね、お姉ちゃん。」
「うんっ。さんきゅーユッキー。」

 こうして穂乃果は新曲の歌詞を書くという大任に就いたんだ。
 それが落とし穴だって気づいたのは不幸なことにずっと後だったんだけどね。


     2

 穂乃果にとって文章を書くのはひどく苦痛な作業なんだよね。
 一ヶ月かけて一行も書けないこともあれば、三日三晩書き続けた挙句それがみーんな見当違い!
 なんてこともあるんだ。
 えへへ♪

 えへへじゃないよ!ほんとにもー!
 どうすんのさ、穂乃果に歌詞なんて書けるわけないのにさ!
 そういえば海未ちゃんがいつか言ってたなぁ。
「穂乃果に文章を書かせるよりは、二日酔いの猿にキーボードを叩かせた方がまともな文章ができそうですね」って。
 その言葉の意味はよくわかんないけど、なるほどそれがヒントかな?
 って思って、穂乃果はとりあえずでたらめにキーボードを叩いてみることにしました。

  fdsjktsばsf;dsかfdshfvbdさぁjkbんこ:
  くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」。
  12345。
  ああああああいううえおかきくけこあいうううううみちゃんのばかー!!!

 海未ちゃんはばかだよ!
 こんなのってぜんぜん意味分かんないよ!
 いくら穂乃果がばかだからって、こんなのよりはまともな歌詞が書けるもん。
 だよね?
 たぶん。
 きっと。
 ああ、でも、もう疲れたし。
 歌詞なんかぜんぜん書けないし。
 やめちゃおっかなあ……。
 そう思ったそのとき。
 穂乃果のアタマのなかの海未ちゃん回路が。
 やれやれやっぱり穂乃果は私がいないとダメですね。
 なあんて言い始めたんだよ。
 もお、海未ちゃんはうるさい!
 穂乃果だってやればちゃんとできるもん!
 本当ですか。
 本当だもん、海未ちゃんが帰ってきたら、私のスーパーすごい歌詞で、びっくりさせちゃうんだからね。
 それが本当ならいいんですけど、穂乃果のことですから、どうなることやら。
 うぅ、またそうやって、ばかにしてー!
 なにさ、海未ちゃんなんか穂乃果のマボロシのくせにっ!
 ほんとの海未ちゃんなんか山でのんきに遊んでるんでしょ!
 心配だから早く帰ってきてよね!
 ついでにおみやげも買ってきてよね!
 やれやれ。ではひとつだけヒントをあげますよ。
 ちょうだいよ。穂乃果は海未ちゃんがくれるものならヒントでもイチゴでもなんでも貰うよ。
「文章を書くという作業は、とりもなおさず自分と自分をとりまく事物との距離を確認することである。必要な物は感性ではなく、ものさしだ」――これは私の師匠の言葉です。
 ???なにそれ、どうゆう意味?
 私にもわかりません。
 ですが、「事物との距離を確認する」とは「歩いて確かめろ」という意味ではないかと思うのです。
 そうかなぁ。
 ですから私は山を登っています。
 その山の高さを、私と事物との距離を、確認するために。
 海未ちゃんもたいへんなんだね。
 ですから穂乃果。
 自宅にこもって机に向かってばかりでは、いい歌詞は書けません。
 書を捨てよ町へ出ようです。
 外の広い世界へとはばたくのです。
 穂乃果にはその可能性があります、私はそう信じてます。
 ムーブオン、ムーブオン。
 ダッシュダッシュ、トゥー・ザ・スカイハイです!

     3

 なるほど。
 穂乃果は家を出たよ。


     4

 なんて、海未ちゃん回路からのヒントがあろうとなかろうと。
 今日は月曜日。
 今は朝。
 穂乃果は学校へ行くために家を出るんだけどね。
 空へはばたくわけでもなく。

 そうして穂乃果が海未ちゃんのいない海未ちゃんいない的世界を歩いていると。
 曲がり角にカカシみたいな女の子が立っていました。

「ほのかちゃおはよう」
「おはようことりちゃん!」
「けひひっ」
「けひひってなに?」
「ことりそんなこといってないよぉほのかちゃん」
「そっかぁ」
「うひぃっ、ひひぃ」
「やれやれだぜ」

 このカカシさんは、じゃなくてこの女の子は私の幼なじみの南ことりちゃんです。
 ことりちゃんはかわいくてやさしくて、穂乃果の大好きな友だちなんだけど。
 少しだけ心がかわいそうな女の子なんだ。

「んみちゃんまたいえでしちゃったのほのかちゃんきいた?」
「うん。それでね」
「ほのかちゃんみちゃのかありにさくしをしてあげるんだね?」
「そうだけどなんでわかったの?」
「おさななじみだもんほのかちゃとんみちゃのことがだいすきだもんわかるもん」
「ことりちゃんはすごいや」
「んひぃ、はあ」
「それでね穂乃果ぜんぜん書けなくて、だから」
「ひんとがほしいんだねほのかちゃんは」
「そうなの。わかるんだね」
「わかるもん」
「なるほど」
「あのねほのかちゃんみちゅあわぁさくしおするまえにまきちゃあとおはなしおしてるはずなのだからねまずわほのかちゃもまきちゃあとおはなししてみるといいんじゃないかなほのかちゃん」
「ん?」

 あのね、穂乃果ちゃん。
 海未ちゃんはぁ、作詞をする前に真姫ちゃんとお話をしてるはずなの。
 だからね、まずは穂乃果ちゃんも真姫ちゃんとお話してみるといいんじゃないかな?
 穂乃果ちゃん。

「なるほどっ」
「ほのかちゃほのかちゃ」
「なあにことりちゃん」
「ほのかちゃんっていってたらほのかちゃのなまえもっとよびたくなっちゃったのほのかちゃ」
「ことりちゃんことりちゃん!」
「ひゃあほのかちゃがことりのなまえをよんでくれたよ」
「こーとーりーちゃー」
「ほのかちゃー!!」
「えへへぇ」
「いひふへぅる」
「いひふへぅるってなに?」
「たのしいってことだよふぬかちゃ」
「なるほど」

 いひふへぅる、はたのしいってこと。


 穂乃果とことりちゃんは学校に着いたよ。

「げ、朝から出たわね、妖怪幼なじみども」

 納豆のハチミツ和えを食べた犬みたいな(かわいい)顔のにこちゃんがいました。

「おはようにこちゃん!」
「にこちゃ、ほのかちゃはようかいじゃないよぉ」
「あんたも含めて言ったんだけど」
「にこちゃん、おはよう!」
「えーことりようかいじゃないよぉ?」
「ああ、はいはいそうねそうね妖怪さん」
「にこちゃん、おーはーよーうー!」
「うるっさい穂乃果!」
「にこちゃん、ちゃんと挨拶できない子は穂乃果ポイント減点だよっ」
「にこちゃ、だよぉ!」

 にこちゃんは口内炎を我慢してるルイ・アームストロングみたいな表情(かわいくない)をたっぷり10秒間見せてから。
 深夜の自動販売機みたいに心のこもった声で。
「おはようございます、高坂さん、南さん」と言いました。

「よし、ちゃんと挨拶出来たにこちゃんには穂乃果ポイント10点あげます」
「えー、にこちゃいいなぉことりもほしーい」
「にこはいらないからことりにあげてくれる?」
「ことりちゃんは100点だよっ」
「やったー!!!にこちゃ、やったよ~!」
「よかったね、バイバイ」

「あっ、待ってにこちゃん!」
 勤勉なアリさんのように教室へ急ぐにこちゃんの後ろ姿に向かって穂乃果は叫びました。
「海未ちゃんいなくなっちゃったの聞いた?」

 にこちゃんは歩き続けたまま振り返りもせずに、肩のちょっと上まで持ち上げた右手を左右に3回振ってから親指で地面を指さしました。

「『3球目でスクイズ』のサイン?」
「ちがうとおもうよほのかちゃん」
「怒ってるのかな?」
「たぶん」

 穂乃果は腕を組んでにこちゃんが怒っている理由を考えてみたよ。
 考えられる主なポイントは3つあります。

 1、海未ちゃんが心配だから。
 2、海未ちゃんがいないと曲が完成しないし、ダンスや歌の練習も全員でできないから。
 3、さっきなにげに、ことりちゃんが1回もにこちゃんに「おはよう」を言わなかったから。

 仲間の妖怪たちが心配および迷惑をかけてしまって、幼なじみとして心が痛いよ。


 ヒットエンドラン。

 それから穂乃果は一旦教室に荷物をおいて、音楽室へ行ってみることにしたよ。
 朝礼前のこの時間、音楽室には真姫ちゃんがいるはず……
 お、いたいた。
 やっほい、マッキー。

「あなたが来るのを待っていたわ」
「え?真姫ちゃん穂乃果が来るの、わかってたの?」
「いいえ。ただ意味ありげな台詞を言ってみたかっただけよ。格好いいでしょう?」
「なるほど」

 そういえば真姫ちゃんは「中二病」ってやつだって、希ちゃんが言ってたっけ。
(海未ちゃん回路)いえ、これは中二病というより、ただイタいだけでしょう。
 え?違うの? あ、中二病っていうのは昔の海未ちゃんみたいなやつか。
(海未ちゃん回路)やめてください。

「こないだ凛が後ろからこっそり近づいて来て私のこと脅そうとしてたから、絶妙なタイミングで同じ台詞を言ってみたらびっくりして猫みたいに逃げていったわ」
「なにそれ穂乃果もやってみたい」
「でしょ?」
「あ、そうそう、海未ちゃんがいなくなっちゃったって聞いた?」
「花陽から聞いたわ。花陽はことりから聞いたって」
「それでねカクカクシカジカ歌詞歌詞カキカキ」
「ふうん」
「真姫ちゃんどう思う」
「さあ、特に賛成も反対もしないけど。穂乃果が本当にやりたいなら、お好きにどうぞ」
「やっほい」
「ていうか、曲自体はもうできてるのよね」
「え?そうなの?」
「私の曲が先で、海未がそれに歌詞をつけることになってたから。サワリだけ弾いてみるわね」
「うん、弾いて弾いて」

 真姫ちゃんはピアノに向かってシャンと背を伸ばし、演奏をはじめました。
 元気な曲だね。

「いま弾いたのが1曲目」
「1曲目?」
 1曲目って?

 真姫ちゃんはすぐに次の曲を弾き始めたよ。
 負けず劣らず元気な曲だね。

「これが2曲目のサビ部分、そして」
「そして?」

 3曲目が始まった。
 面白い曲だね。

 曲が終わって、次の曲が始まる。
 また終わって、その次が、次が、次が…… 

「これで7曲。次のは特に自信作よ」
「オーケー真姫ちゃん。いったんストップしようか」

 穂乃果にもなんだか事情がわかってきたよ。

「質問してもいいかな、真姫ちゃん」
「いいところなのよ」
「何曲作ったの?」
「9曲よ」
「9曲」
 9曲だって?

「インスピレーションが湧いてきたのよ」
「湧いてきちゃったんだね」

 9曲の新曲。
 オーマイガ。
 真姫ちゃんってすごい。
 インスピレーションってすごい。

「だけど、さすがの穂乃果も、9曲もいっぺんに練習するの大変な気がするよっ」
 ていうかμ's全員死んじゃうよ、きっと。
 過剰ファイトだよ。

「ああ、違うのよ。あなたが覚えるのは1曲だけ」
「1曲だけ?どうして?穂乃果が勉強できない子だから?」
「ちがう。これはね、μ'sの新曲というより、個人曲なの」
「個人曲」
「そ。ちなみに最初に弾いたのが穂乃果、次が海未、次がにこちゃん……というイメージで作ってるわ」
「ほえー」
「ライブで、μ'sの曲の合間に、個人個人のパフォーマンスも入れたら、バリエーションも出て、盛り上がるんじゃないかなって話になって。その方が個々人のキャラや顔も覚えてもらえるし。μ'sがもっと人気になるんじゃないか、って話になったのよ」
「なるほど。でも穂乃果はその話聞いた覚えないなぁ」
「絵里と私と海未とにこちゃんとで話しててそういうことになったのよ」
「絵里ちゃん真姫ちゃん海未ちゃんにこちゃん」
 なんかすげえ組み合わせだ。

「と言っても、実際そううまく行くかどうか分からなかったし、まずは数人分試しに作ってみて、具体的な形になってから皆に相談してみよう、ってことになったの。イメージを掴むために」
「なるほど?」
「とりあえず『にこの個人曲は絶対必要だしー?お客さんも喜ぶしー、ていうか歌いたいマジで頼みます』とお腹をすかせた犬みたいな顔できゃんきゃん言い張るにこちゃんと、ロシア語でゴニョゴニョ言ってたからよくはわかんないけどなんだかんだで歌いたがってたっぽい絵里と、『むむむむりです絶対無理ですひとりで歌うなんて皆が私ひとりをこの園田海未そのひとを観るなんて恥ずかしくて死んでしまいますわわわ私はけっこうです勘弁してくださいていうか私の曲作るくらいなら穂乃果とことりのデュエットソングを作るべきなのではありませんか?タイトルはらびゅらびゅ☆幼なじみでお願いしますいぇーいらびゅ★らびゅ☆え?だめ?そこをなんとか』と泣きながら頼んできた海未のソロ曲を作ることにしたのよ」
「真姫ちゃんものまね上手だね」
「でも3曲のつもりがいつの間にか9曲になっちゃったのよね、不思議と」
「わあい、ふしぎだねっ」
「まあ、そういうわけだから。作詞をするなら、楽譜と曲のデータをあげる」
「さんきゅーマッキー」
「だけどなんというか、穂乃果が歌詞を作ってくれるなら、私としても嬉しいというか、ホッとするわ」
「ん?」
「正直なところ、責任感じてたのよね。海未が逃げ出しちゃったの、私がいっぺんに9曲も押し付けたせいもあるんじゃないかと思って。彼女、責任感強いわりにプレッシャーに弱いじゃない?」
「否定はしないよ」

 っていうか穂乃果も逃げ出したい。

 だけどもう遅い。穂乃果はマウンドにあがっちゃったんだよ。

 選手交代です。
 背番号1番、高坂選手。


     5

 悩みの朝の会が終わり、悩みの授業×4プラス休み時間×3があり。
 今は昼休み。
 腹が減っては戦はできぬ。
 戦はしないけど作詞ができぬ。
 穂乃果はパンを買いに行きます。
 パンを食べれば作詞もできるさっ!
 なんちゃって、てへ♪
 購買のカレーパンとかけて作詞と解きます。
 そのこころは。
 辛い(からい、つらい)。

 あんまりうまくありませんね、括弧がないとわかりにくいですし。
 と、海未ちゃん回路の容赦ないツッコミ。

「あー、どうしよ海未ちゃん」

 元気を出してください穂乃果。
 それから、背中が曲がっていますよ。
 もっとシャキッと歩きなさい。

「海未ちゃんはいいよね、穂乃果のマボロシなんだから」

 マボロシって言われるの、けっこう傷つくんですよ?
 たしかに私は現実の園田海未ではなく、穂乃果の妄想としての海未ちゃんですけど。

「あ、ごめんね。でもどうしよー。おや?」

 おやおや?
 穂乃果からちょうどことりちゃんの身長×3の距離に立っているのは。
 薄暗い校舎の中でギラリと光るショッキングピンク。
 ごぞんじ年中長袖萌え袖セーターの最上級生、われらが矢澤にこちゃんです。
 朝も会ったねいえーいピース。
 にこちゃんが購買に来てるなんて珍しいじゃん。ジャン・クロード・バンダム。
 いぇい、こっち向いて念力。

 穂乃果の念力が効いたのかにこちゃんはクルリと振り返るとこちらへスタスタスタと歩いてきて、
 ちっちゃい口が「ほ」の形に開いて徐々に萌え袖の右手が上がり、
 右手は敬礼さながら前方45度の角度に掲げ口唇は「の」の形、
 そして「か」で穂乃果の目の前までやってきて掲げた右手をビシリと穂乃果の頭に落下させた、チョップだこれ痛え。

「あいたー!?」
「アイドルがしけたツラしてんじゃない!」
「ほええ、にこちゃん?」
「アンタねー、どこでファンが見てるとも限らないのよ。アイドルは常に笑顔笑顔」
「穂乃果いま笑顔じゃなかった?やばい顔してた?」
「泣きっ面に蜂って顔してる。そんな顔見たらアンタのただでさえ少ないファンが消滅するわよ。そしてμ'sの人気も若干下がる。オトノキの知名度は下がり廃校は近づき凛はにゃーと鳴き花陽はおなかを空かせ真姫は進学校に転校してことりは留学、そして絢瀬絵里のIQは下がるわ」
「ううむ、それはまずい」
「ほら、にこにこにー」
「にこにこにー」
「いえーい、ニコ♪」
「いえーい、ぴーすぴーす。蜂さんいなくなった?」
「やればできるじゃない」
「おっす」
「いい、アイドルの笑顔は世界を変えるのよ」
「ううむ、笑顔かー。さっすがにこちゃんアイドルの鏡」
「トーゼンよ」
「指導あざっす。ま、たまににこちゃんもやばい顔してるけどね」
「叩くわよ。それより穂乃果、今日の放課後の練習はどうするつもりよ?」
「え?どうするって?」
「やるの?やらないの?」
「やるよー?どして?なんで?」
「朝練中止したじゃない」

 昨日のうちに「明日の朝練は中止ほの~(←これ新しい語尾です、ドウカナ?)」ってメッセージを皆に送っといたんでした。

「あー、あれ。海未ちゃんいなかったから。ほら、みんなね、心の準備的な。ワンクッション、必要かなっていうか。ていうか穂乃果、海未ちゃんいないと起きらんないし」
「明日からやるわよ。明日はちゃんと起きなさいよ」
「はいっ。ことりちゃんに起こしてもらお。にこちゃんやる気まんまんだね」
「私はいつもやる気よ!」
「そだっけ」
「つーか海未はいつ帰ってくんのよ、あの筋肉馬鹿女」
「筋肉?うーん、それは穂乃果にもわからない、だよ。μ'sのこともあるし、たぶん早く帰ってくると思うけど、逆にそれがあるからなかなか帰ってこれないかもしんないし」
「べつにあんな女、心配なわけじゃないけど、3妖怪の1匹がいないと霊界のバランスが崩れてμ'sが魑魅魍魎跋扈する百鬼夜行大パレードになっちゃうニコ」
「3妖怪?ちみもーみょー?」
「主に海未抜きで高坂穂乃果さんがマジメに練習できるのか心配ニコ。海未はどーせ、あのカタブツのことだから、家出先でもトレーニングしてるんでしょうけど」
「トレーニング」

 穂乃果はにこにこスマイルの海未ちゃんがアルプス一万尺こやりの上でアルペン踊りをさあ踊っているところを思い浮かべてみたよ。
 みんなー、今日はうみみんのコンサートに来てくれてありがとーっ!
 わはは、海未ちゃんおもろい。
 っていうかにこちゃんなにげに失礼です。
 穂乃果、ちゃんと練習くらいできます。します。
 海未ちゃんは穂乃果の保護者じゃないし、穂乃果は子どもじゃありません。

 え?違うんですか?

 もー、海未ちゃん回路はだまっててっ。

「ほら、笑顔忘れてるわよ」
「おっと、にこにこ」
「ふん。まあ、そういうことだから。練習はするし、ふつーにするわよ。私たちはいつものμ'sだし、妖怪その3が帰ってきても変わらぬμ'sよ。じゃあねバイバイ」
「うえ?ばいばーい?」


 行っちゃった。何も買わないで。

 ……にこは購買になにをしに来たのでしょう?

 さあ?

 あと妖怪その3って?

 さあ。

 まあいいや、とにかくファイトファイトだよっ。
 目指せサヨナラ逆転満塁ホームラン。
 にこにこにー。


     6

 みんなのための、ひとりひとりの歌詞ということで。
 とりあえず歌詞つくりの参考に。
 メンバーにインタビューしてみることにしたよっ。

「ほのかちゃ、おひるぶしつでたべるの?」
「うん。ここなら静かにお話できそうだし」
「そだね。ほのかちゃ、ことりがだれかおはなしするひとよんでこようか?」
「え?うーん、じゃあ、おねがいっ」
「らじゃー!わかたよふぉぬかちゃ」
「フォカッチャ?」
「ちゅんちゅん、いってきまーす」
「いってらっしゃーい、ぴーす」
「ぴーすぴーす」

 がちゃ、ばたん。
 ぱたぱたぱた。

 さて。
 穂乃果は新作ランチパックのパッケージをびりりと開けます。
 わはは、海未ちゃんいないから食べ放題だ。
 どうなってもしるもんか、太ってやる。デブアイドルになってやる。

 いますよ、私は。

 あ、しまった!
 こっちの海未ちゃんは常にいるんだった!

 穂乃果、あなた私がいないからといってそんなランチパックを7つも8つも9つも10も!

 へいへいへーい。
 海未ちゃん回路に穂乃果を止められるもんなら止めてみなー。
 穂乃果の育ちざかりの若い食欲は止まらんもんね、にひひ。

 ああ、あなたはなんという、なんという。
 あっ、あああ。
 カロリーが、糖質・脂質・タンパク質の黄金比が。
 だめです、やめてください、お願いです、ふとってしまいます。
 穂乃果が、私の穂乃果が、そんな、ああっ。

 ふとった穂乃果も愛してよ。

 なあんて穂乃果が海未ちゃん回路と戯れていると、
「コンコココンのコンコンコン」
 と爽やかなノックの音が響き渡りました。
 ううむ、このリズム感ただものではない。
 さてはスクールアイドル。

「お入りなさい、選ばれしものよ」

「はい……」
 ノックの主は花陽ちゃんでした。

「やっほい、花陽ちゃん。来てくれたんだね、ぴーす」
「はい……」
「ままま、座って座ってー」
「はいぃ……」

 穂乃果、花陽が怯えていますよ。

 えー?
 そんなことないよ。
 花陽ちゃんはいつもこんなかんじだよ?

 そーなんです。
 花陽ちゃんはちょっとばかし臆病で引っ込み思案の女の子。
 完熟トマトのように心が繊細なので、お友達のまえでも、おっかなびっくりドキドキにゃんにゃんしちゃうんだよね。
 花陽ちゃんはわりといつもこんな感じ。

 だから花陽ちゃんが心なしか普段よりよそよそしいことと。
 先ほどからギロリギロリと親の仇を見るような目つきで。
 机の上に置かれた私のランチパックを睨んでいることとは関係がないはず。
 はずなんだぜ。

「あの、穂乃果ちゃん。ここに来たら…相談に…乗って、もらえるって聞いて、それで…」
「相談?」
「うん……ドアの、とこにも、書いてあったし……あの、花陽間違っちゃいました…?」

 ドアとな。
 どれどれ、がちゃりと扉を開いて確認してみると、ドアの廊下側に

「ほのかちゃんのお悩み相談室」

 と大書された貼り紙がなされていました。
 かわいい穂乃果のSDイラストつきです。
 やや。これはいったい。
 なあんて、犯人はことりちゃんに決まってます。
 それが証拠にこの速記文字みたいな字はことりちゃんの字。
 それにこのかわいい穂乃果の似顔絵はことりちゃんの絵です。
 穂乃果はことりちゃんがどうしてこんなことをしたのかしばし考えてみたけど。
 スウッと気が遠くなるような感じがしたので、もう考えるのはやめた!
 俺は仮面ライダードライブだ!
 わからないことは考えてもしょうがないノ介。泊進之介。
 歌詞作りのためのインタビューでも、お悩み相談でもおんなじだよね。
 いーや、いーや、べつにいいや。

「あの、穂乃果ちゃん……?」
「あ、うん、ごめんねなんでもない」

 ドアばたん。
 穂乃果は後ろ手でドアを閉めてにこにこ顔で花陽ちゃんに近づきます。
「そう、ここは穂乃果のお悩み相談室。悩める花陽ちゃんの悩みをカレーに解決しちゃうよ」
 よく考えたら悩んでるのは穂乃果だったはずでは?
 とかそういうことを考えるとまたスウッと気が遠くなりそうなのでやめときます。
 穂乃果は深く考えるのは苦手です。

「か、カレー?カレーライス……食べたいょ……」
「あ、そういえばことりちゃんは?」
「ことりちゃんは、アルパカさんと約束があるから♪って、笑顔で小屋の方に走ってったよ……」
 深く考えちゃいけません。

「それで、花陽ちゃんの相談って?恋とかっ?」
「あのね、ごはんが……ごはんがね……」
「ん?」
「ごはんが、おいしいの」
「うん。ごはん。おいしいよね」
「それで、ついいっぱい食べすぎちゃって……花陽、太っちゃいそうで……」
「ふーむ、それは由々しき問題。なんとも現代的な。アクチュアルな。身につまされるような、だね」
「それでね、最近は、晩ごはんを食べ、ないように、おうちにかえったら、両手を縛って、お布団のなかで歯を食いしばって丸くなってるの……」
「うん?」
 うん。
 くもゆきがあやしくなってきたよ。
「でもねいつも朝起きたらね、そこはお布団のなかじゃなくキッチン……顔中に白米が……おこめさんが……いっぱい、いっぱい」
「う、うーん!」
「ほら、これ……手首のとこ、ちょっと傷に、なってますよね、えへえへ……花陽がぁ、縄をむむむむり、やり、ひきちぎったあとなんです……あは、あはははぁ」

 だいじょうぶかな?
 穂乃果、花陽ちゃんの助けになれるかな?
 友達として先輩としてμ'sのなかまとして。
 花陽ちゃんのためにいまできることは。
 心療内科を紹介してあげること。
 ではないのかってそんな気がしてきて海未ちゃー助けて!

 がんばってください、穂乃果。

 はくじょうものー!

「えへ…こんなの、ぜんぜんアイドルっぽくないですよね…」
「なんか花陽ちゃんのそれはもうアイドルとかそういう問題じゃないような」
「は?」
「なっ、なんでもないよっ!」
「はい……」
「え、えっと、ごはん! おいしいもんね! あるてーどしょーがないよねっ」
「おいしぃ……ごはんは、おいしい……」
「おいしいよねっ」
「りんちゃん」
「えっ、なんでいま凛ちゃんって言ったの?」
「花陽、言ってないよぉ……」
 深く考えちゃだめです。

「うん、言ってないよね。そだね。空耳空耳。空耳アワー。なんつて」
「はい……」
「うーん、それで、まあ、困ったよね、ごはんはおいしいんだけど、太りやすいって聞くし、かといってなにも食べないのは健康によくないし、ここは花陽ちゃんも穂乃果みたいにパン食してみるのはどうかな?」
「パン」

 ギラリ。
 って花陽ちゃんの眼が光る音がしたよ。

「う、うええ、いや、ご、ごめ、ごめん、むりにパンを勧める気はないんだよっ。怒んないでー!」
「えは、えへあ、へへえ……やだなぁ、穂乃果ちゃんは……花陽、おこってないよ……」
「そ、そう?」
「は、花陽もぉ……パンは好き。だし……もちろんー……パンを食べる……ことも、ある、よ……むしろ……大好きだよ……きらいじゃない……どころのはなしではなく……好き。と、思う……うん……花陽は、パンが、好きぃ……」
「うんうんうんうん!」

 こわいです。
 花陽ちゃんのはりついたみたいな笑顔が。

「でもね、穂乃果ちゃん……花陽は、ね、ごはんを、やめるわけにはいかないの……これは、好き、嫌い、とかのもんだい、じゃぁ、ないんです……」
「好き嫌いの問題じゃない」
「運命なんです」
「うんめい?うんめいって、運命の恋、とかの?」
「そう……運命ぃ……あのね、穂乃果ちゃん。穂乃果ちゃんにだけ、花陽のひみつ、おしえてあげる、ね……」
 ひみつとな。
 秘密、それは甘美な響き。
 穂乃果は秘密が大好きです。
 だけどなんだかいやな予感がするんだよ。

「花陽は、お米の星のお姫さま、なんだよ?」
「なるほど」
 と、穂乃果は言ったよ。
 なるほど。
 なるほどね。

「……あ、これ。皆にはないしょだよ…?穂乃果ちゃんだから、言ったんだからね……」
「光栄です、かよちゃん姫」
「やだなぁ……敬語、なんて使わないで……この星では、花陽も王族ではなく一介のオトノキ生にすぎないんだから……」

 故郷の星ではお姫さまにして今は一介のオトノキ生。
 そしてμ'sのメンバーである小泉花陽ちゃんは。
「にんまり♪」とはにかんだ。

 やれやれ。
 だれかたすけてー。


     7

 こうして穂乃果(と海未ちゃん回路)は花陽ちゃんの血沸き肉踊るりんりんぱなぱなまきまき米米なお話を小一時間ばかり聞いて大いに感動したわけだけど、
 それはそれとして今は歌詞の話。
 それにしてもまさか凛ちゃんが聖騎士リンエル様だったなんてね。驚きです。
 はじめての共同作業まきりんぱなナワトビブレードでアルティメットドラゴンを倒すとこ、穂乃果も見てみたかったなあ。


「ことばには、天使的な側面と、日常的な側面との、2つの意味的側面があります」

 そう穂乃果の幼なじみは言ったよ。

「ことばの天使的側面とは、ことばが私たちの日常から隔たった異次元をさししめすような機能を言います。
 あらゆることばには異次元のイメージを呼び起こすはたらきがあるんです。
 たとえば一方には、『天使』とか『ことり』のように、はじめから神聖な意味だけを持ったことばがあります。
 しかし他方、『木』や『山』や『花』のようなごく当たり前のことばにも、やはり異次元のイメージをさししめす可能性、ちからがあるのです」

 穂乃果はことりちゃんが天使のつばさで、花咲き誇る5月の小山を飛び回っている景色を想像したよ。
 それはなんだか素敵で、グッと来るイメージだね。
 穂乃果のイメージのなかで、海未ちゃんが天使のことりちゃんを必死で追いかけています。
 あ、海未ちゃん転んだ。

「私には『穂乃果』ということばは、力強い日常的な側面と、光り輝く天使的な側面とがひとつに合わさったもののように思えます」

「なるほど?」

「作詞とは、詩を書くとは、ことばの2つの側面に付き合うということです。
 あなたが『産毛』と書くとき、それは可愛らしい小鳥の産毛を意味すると同時に、宇宙が誕生する前の原初の混沌をすら想起させるものなのです」

「原初の混沌」

「はい。
 ことばには、2つの意味がある。
 あなたがこのことを忘れなければ、きっと良い詩が書けますよ。花陽にふさわしい、天使的に豊かな詩が」

「穂乃果は、花陽ちゃんのお話に、グッと来たよ」

 穂乃果は学校で聞いた花陽ちゃんのお話を思い出す。
 花陽ちゃんが、いえ、パナヨ姫様があの悪いドラゴンの巣から生きて帰ってきたことが奇跡のようです。
 あの愛と真実の物語を最初花陽ちゃんの妄想だと疑ってしまって、穂乃果反省。

「はい。私もです。特にパナヨが長い髪を塔の上から垂らすところに感動しました」

「花陽ちゃんのために、いい歌詞を書きたいな」

「はい。穂乃果ならできます」

「でも、ひとつだけ問題があるんだ」

「なんです?」

「穂乃果のあたまのなかには、今、たくさんのことばがあるよ。
 きっと花陽ちゃんのエネルギーが穂乃果の脳に蓄積されて光を放っているんだ。
 このことばたちには、たしかに、海未ちゃんの言うような日常的側面と、天使的な側面との2つがあるように見える。
 でも、穂乃果にはこのことばたちをどうしてやったらいいのかわかんないよ。
 ことばたちはげんきいっぱいな幼稚園児みたいに駆けまわったり、ころころ転がったり、みんなでおゆうぎしているんだけど。
 げんきよすぎて、穂乃果のいうことなんか聞いてくれそうにないや。
 このこたちをお行儀よく整列させるにはどうしたらいいのかな?海未ちゃん」

「お行儀よく並ばせる必要はないのですよ」

「でも、詩の形にはしなくちゃいけない。
 真姫ちゃんのすてきな曲に合わせて、ことばを切り取って押し込んでってしてやらなくちゃいけない。
 そしたらきっとこのこたちは死んでしまうよ。
 死なないとしても、げんきがなくなって、花陽ちゃんとは似ても似つかないものになるよ。
 天使のつばさだって、なくなっちゃう」

「大丈夫ですよ、真姫のすてきな曲に合わせても、ことばは死にません」

「自信がないよ。穂乃果だけじゃ、きっとうまくできないよ」

「私が手伝いましょう。
 穂乃果は天使的な側面に注意しながら、ことばを選ぶ。
 私がそれをつなげて、メロディーに載せる。
 どうです?」

「海未ちゃんが?」

「はい」

「でも、いいのかな、手伝って貰っちゃって。
 穂乃果だけのちからで歌詞をつくらないと、海未ちゃんが安心して未来に帰れないよ」

「いつからそういう物語になったんですか。私は穂乃果のドラえもんですか」

「ちがったっけ」

「ちがいます」

「似たようなものだと思うけどなあ」

「ちがいます。それに、私が手伝っても、誰かに手伝ってもらったことにはなりませんよ」

「というと?」

「私は穂乃果ですからね」

「海未ちゃんが穂乃果」

「はい。私は穂乃果のなかの園田海未。あなたの一部です」

「穂乃果には海未ちゃんが穂乃果だとは思えない。だって、穂乃果よりいろんなことを知ってるもん」

「穂乃果よりいろんなことを知ってる私も穂乃果なんですよ」

「むずかしいことを言うなあ、ドラえもんは」

「人間が、自分について意識できる領域はほんのわずかです。自分の背中を自分で見れるひとはいません」

「海未ちゃんが穂乃果の背中なの?」

「ある意味では」

 穂乃果は目をつぶって、穂乃果の背中に海未ちゃんがピタリをくっついている光景を想像してみたよ。
 うーん、こわい。

「変な想像をしない」

「それなら任せちゃってもいいのかな」

「はい。一緒にやりましょう」

「よーし、いっちょやっちゃおうか!」

「その前に穂乃果」

「なんだい海未くん」

「たしか明日は、先週出た英作文の宿題の締め切りでしたが、あれはどうなりました?」

「大丈夫、心配いらないよ。
 ちゃんと考えてある。
 文章はぜんぶ穂乃果のあたまのなかにあるし、文法のチェックだって入念に済ませた。
 あとはあたまのなかのノートを読みながら、現実のプリントに書き出すだけ。
 だけどひとつだけ問題があるんだ。
 黒ヤギさんが来て、穂乃果の英作文を食べちゃったんだよ。
 あのヤギさんはどこに行ったのかな?
 海未ちゃん、知らない?」

「つまり?」

「海未ちゃん作文も手伝ってー!」

「やれやれ」


     8

 穂乃果たちは花陽ちゃんの歌詞を完成させたよ。

 それは真姫ちゃんのメロディーとよくマッチして。
 すごくキュートな歌になった。


     9

 そして火曜日。
 穂乃果は音楽室の大賢者マキトマトさま(この地での名は真姫ちゃん)に歌詞の完成を報告に行ったんだ。

「歌詞が完成したのね」
 と、真姫ちゃんは穂乃果がなんにもいわないうちにズバリと当てました。
 穂乃果はびっくりして口を閉じたまま頷きます。
「そしてそれは花陽にふさわしい、やさしくてあったかくてキュートな歌詞なんじゃないかしら」
「どうしてわかるの?」
「穂乃果の顔にそう書いてある」
「穂乃果の顔にそんな複雑なことが!?」

 やれやれ。
 自分の表情がそんなにわかりやすいとは知らなかったよ。
 そんな海未ちゃんじゃあるまいし、と思います。
 このぶんだと、穂乃果のひみつは案外いろんなひとにばれてるのかも。
 こないだ海未ちゃんにないしょで海未ちゃんのおやつのおまんじゅうを1個食べちゃったことも。
 こどものとき海未ちゃんとことりちゃんといっしょのお布団で寝たときに、穂乃果がしたおねしょを海未ちゃんのせいにしたことも。
(でもこれはことりちゃんも共犯だよっ。)

「海未がかわいそうね」
「えっ、な、なに?」
「なんとなくそんな気がしたの。ふむ」

 真姫ちゃんは優秀な探偵のように顎を手で隠しました。
 ふむ。

「曲のタイトルは『なわとび』にしましょう」

 それは穂乃果がつけようと思っていたタイトルと同じでした。
 真姫ちゃんはまだ歌詞を見ていないはずです。

「まいったな。真姫ちゃん、どうして穂乃果の考えてることわかるの?」
「それは私が音楽博士だからよ」
「音楽博士?」
 音楽博士って?
「音楽博士は音楽のことならなんだってわかるの。とくに、それが友達が関係してることで、こんなキモチのいい火曜日の朝なら」
 真姫ちゃんはまじめに言います。
 なるほど、そういうことってあるのかもしれません。

「それでは音楽博士」と穂乃果は言ったよ。

「真姫でいいわ」
「真姫ちゃん。歌詞を預けるね」
「ええ。楽譜を見なおして、調整するわ。それからデモ音源をつくって、花陽に渡すわね。いい?」
「いいよ。それで、穂乃果は次に、誰の歌詞を書けばいいのかなあ。真姫ちゃん知ってる?」
 穂乃果は神託を待つ巫女の気持ちでききました。

「音楽博士の直感から言えば」
 真姫ちゃんは古代の巫女のように言いました。
「穂乃果が次に作るのは、にこちゃんの歌よ」


     10

「にこは、ぜったいに、反対」
 って、にこちゃんはにべもなく言ったんだ。
 にべもなく、の「にべ」ってなんだろう。
 って穂乃果はそのとき思った。
 親切、のことですよ。
 と海未ちゃん回路が言った。

 火曜日の放課後。
 穂乃果は練習を終えていそいそと校門を出て行くにこちゃんをつかまえて。
 今までの経緯を説明して。
 にこちゃんの歌について相談をしたんだ。
「にこちゃんどう思う?」
 するとにこちゃんはごきげんの悪いパグ犬みたいに「はんたい!」と吠えて、それから舌を出した。
 人さし指と親指でつくる輪よりもちいさい舌です。

「穂乃果のつくった歌をうたうくらいなら、オトノキの屋上から飛び降りて死ぬ」
「えー」
 花陽ちゃんの歌詞を完成させて自分の文才に自信を抱き始めていた穂乃果は、にこちゃんにそう言われていささか傷ついちゃった。
 てへへ。←謎てへへ。←なんですか謎てへへって。←わかんない。

「そもそも、穂乃果にまともな歌詞なんてつくれないでしょ」
「そんなことないよ、穂乃果、もう花陽ちゃんの歌詞つくったもん。真姫ちゃんもいいっていってくれたし、花陽ちゃんもいい歌詞だってよろこんでくれたよ」
「む、花陽が?」
 にこちゃんは穂乃果のいったことを反芻するみたいにだまりました。
 にこちゃんはアイドル方面のことに関して花陽ちゃんのことは信頼しているのです。
 真姫ちゃんの名前を出したことも、戦略上有効だったでしょう。
 ポテンヒットくらいにはきいたはず。

 穂乃果たちの周囲は火曜日の放課後にふさわしい火曜日の放課後的夕日に彩られた火曜日の放課後的世界でした。
 火曜日の放課後的女子高生や火曜日の放課後的サラリーマン、火曜日の放課後的なんだかよくわからないひとたちが穂乃果たちと同じ方角や反対の方角や右や斜めや上や下に向かって歩いていきます。
 お店やディスプレイからはちゃんちゃかちゃんちゃんぴーひゃららと楽しい音が聞こえてきます。
 どこか遠くでA‐RISEの曲もかかっているみたいです。わあすてき。
 穂乃果はゆっくりと呼吸をしながら。
 隣を歩いてるパグが「きゃっほー、やっぱりニコの歌詞は穂乃果ちゃんに書いてほしいニコよ♪」と言い出すのを待ちました。

「それでもにこは反対」
「えー、なんでー」
「μ'sの作詞担当は妖怪人間3号でしょ。ふつーに妖怪人間が帰ってくるまで待つわよ」
 妖怪人間?
「でも海未ちゃんはいつ帰ってくるかわかんないよ?」
「それでもいい。曲と言っても個人曲で、μ'sのための曲は今でも十分にあるんだし、困らないわ」
「にこちゃん、個人曲歌いたくないの? 穂乃果、真姫ちゃんの曲聞いたけど、めっちゃいい曲だよ」
「歌いたい。でも、穂乃果のつくった歌詞でうたうくらいなら、軍艦マーチを歌うほうがマシ」
「どうして穂乃果の歌詞じゃいやなの?」

 パグは立ち止まって、あたかもこれから巨大な牛に吠えかかるみたいに全身に力を入れました。
 でもにこちゃんの視線の先にいるのは牛さんじゃなくて穂乃果でした。
 犬がワンと吠える。

「高坂穂乃果が嫌いだから!」

 穂乃果は傷つきました。

 ちゃんちゃかちゃんちゃんぴーひゃららという音が聞こえました。
 豆腐屋さんのらっぱの音も聞こえます。
 にこちゃんと穂乃果の間を自転車のおばさんが通りすぎました。
 あ、電線にトンビが止まってる。

 にこちゃんは、どういうわけか。
 言われた穂乃果以上に、自分の台詞に傷ついてるような顔をしていました。

「なんで穂乃果のこと嫌いなの?」
 穂乃果は傷ついたままにこちゃんに聞き返します。
 聞かなきゃよかったと後悔しました。

「アイドルにふさわしくないから。にこの方が一億万倍アイドルだもの。だから嫌い」

 うーん、そうなのかもしれない。
 穂乃果はアイドルとしてまだまだまだまだだもん。
 でもそうはっきり言われるとやっぱし落ち込むよ。
 仲間からさ。

「そもそも、なんで穂乃果なわけ? 海未がだめなら、自分でつくるから」
 にこちゃんはいいました。
 そして、じゃあねもうついてこないで、と穂乃果を置いて去っていきました。

 穂乃果は、なるほどなあと思ったよ。
 ごもっとも。
 自分の曲なんだから、自分でつくる。
 なんだか当たり前みたいにも聞こえるよね。
 そもそも穂乃果はどうしてみんなの歌詞を書くことにこだわっていたんだろ。
 にこちゃんがいらないといってるのだから。
 だから、穂乃果はよけいなことをするべきじゃないかもしれないよね――。

 ジリリリリリリリリ。

 電話が鳴ったよ。
 はじめ、それが電話の音だってことに気づかなかったんだ。
 なにしろ、鳴っているのは公衆電話だったからね。
 おやおや。
 気がつくと、道路には穂乃果しかいません。
 道路脇のお店のなかにすら、人影が見えなくなっていました。
 からっぽな電話ボックスで、公衆電話がどこかの誰かに向かってベルを鳴らしている。
 あの、火曜日の放課後的群衆はどこに行っちゃったのかな?
 まるで世界中が黙祷を捧げてるみたいに静まり返っていたよ。
 穂乃果は少し迷ってから受話器を取って「もしもし」といいました。

「電話にはすぐ出た方がいい。それはすごく大事な電話かもしれないから」
 電話の声は真姫ちゃんだった。

「でもこれ、公衆電話だよ?」
 穂乃果はびっくりして言ったよ。
「公衆電話でもよ。穂乃果にかけてるってことはわかったでしょう?」
「真姫ちゃん、どうしてここが?ていうか番号とか」
「それは私が電話博士だから」
「電話博士?」
「電話博士は意識を集中すれば、必要な電話番号があたまに浮かんでくるの」
「ふーん」
「それより穂乃果、あなたはにこちゃんの歌詞を書かないつもりね」
「うん、まあ」
 穂乃果はあいまいにうなづいた。
 真姫ちゃんがどうしてそれを知ってるのかはわからなかったけど、穂乃果はもうこんなことには慣れっこだからね。

「穂乃果、その選択肢はナシよ。遅かれ早かれあなたはにこちゃんの歌詞を書かなくてはいけないわ」
「でもにこちゃんは穂乃果の歌詞は嫌だって言うよ」
「嫌でもよ。ねえ、穂乃果。まじめにきいて。あなたはもうはじめてしまったの。だから、たぶん私たち9人全員分の歌詞を書くまであなたはどこにも行けないし、海未も二度とここに帰ってこないわ」
「どういうこと?真姫ちゃん、海未ちゃんの居場所についてなにか知ってるの?」
「知らないわよ。でも、そういうことってわかるの。なにしろ私は園田海未博士だから」
「園田海未博士って何!?」
 マッキー、それはさすがに無理があるぜ。

「ねえ、穂乃果。まじめにきいてって言ってるでしょ。あなたがはじめたことなのよ」
「きいてるよ。それより、海未ちゃんが帰ってこないってどういうことなの?」
「文字通りの意味よ。それだけじゃない。あなたはどこにも行けなくなってしまうわ。どこにもよ。超シリアスでマジな話。穂乃果、あなたはね、地下室の階段を折りてしまったの。聴いてる?」
「聴いてる。それで、穂乃果はなにをすればいいのかな」
「あなたにできることは、次から次へと新しい扉を見つけて、次の部屋へ移動することだけ。そこでなにが待っているかはわからないけど、とにかくそうするしかないのよ。私を恨んでも、それはお門違いだからね。さっきも言ったけど、これは穂乃果がはじめたことなんだから。私、言ったわよね。賛成も反対もしないって」
「だけどね」
「『だけど』も『しかし』もないわ。そんな風に立ち止まってる暇はないんだってば。『そこ』から出られなくなるわよ。目下のところは、にこちゃんの歌詞をつくることね。それ以外に道はない。さもなくばあなたは終わってしまうし、なにが終わったのかわからないくらいに終わってしまう。海未は帰ってこないし、そして私たちはきっとばらばらになるわ」
「他に道はないの?」
「ないわ。穂乃果、もう行った方がいい。あとそれから、嘘つきとわかってる人間のことばを正直に聞くのって、ある種のいじわるよ。これはおせっかいかもしれないけどね。」
 がちゃん!
 電話が切れる音。
 受話器が氷のように冷たくなったよ。
 ざわざわ。
 いつの間にか電話ボックスの周囲には火曜日の放課後的群衆が戻ってきていた。
 やれやれ。
 やれやれだよ。

 穂乃果は電話ボックスの扉を開けて、走りだしたよ。
 走る。
 探す。
 いた、夕日に輝くショッキング・ピンク。

「にこちゃん!」

 ピンクのかたまりが立ち止まって、振り返る。
 もうごきげんの悪いパグの顔もしていない。
 それはにこちゃんの顔にしか見えなかったよ。

「穂乃果は、歌詞書くから。にこちゃんの書くからね!書くったら書く!」


 にこちゃんは何も言わずに去っていった。
 こつこつこつと靴音が小さくなった。
 去り際にちっちゃく舌打ちの音が聞こえた気がした。


 さて、これでよかったのかな??

 穂乃果の後ろで、扉の閉まる音が聞こえたよ。


     11

 穂乃果は夢を見ていたんだ。
 穂乃果は穂乃果と海未ちゃんとことりちゃんの3人で。
 5月の晴れた日に草原でピクニックをしていました。
 穂乃果たちは大きな木の陰で、三の字になって草の上に寝っ転がったよ。
 穂乃果たちの近くをぶんぶんぶんぶんと蜂さんが飛んでいた。
 木のうろに勤勉な蜜蜂が巣を作ってるみたいです。
 あんまりたくさんの蜂が飛んでいるから、大丈夫かな?
 って穂乃果は思った。
 すると海未ちゃんが「蜂蜜を採りましょう」と言って立ち上がった。
 それはいいアイデアだと穂乃果は思った。
 だって蜂蜜はおいしいし。
 海未ちゃんは蜂蜜採りの名人だからね。
 でも、木のうろに手を突っ込んだのはことりちゃんだった。
 次の瞬間、木のうろから蜂の巣を取り出したのは穂乃果だった。
 海未ちゃんがことりちゃん?
 ことりちゃんは穂乃果?
 穂乃果は?
 ぶんぶんぶんぶん蜂さんが唸ってるよ。
 それから穂乃果は蜂さんになった。ぶんぶんぶんぶん。
 穂乃果は蜂さんの蜜になった。ぶんぶんぶんぶん。
 穂乃果は大きな木になった。ぶんぶんぶんぶん。
 穂乃果は5月の晴れた日の草原になった。ぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶん。
 もう海未ちゃんもいない、ことりちゃもいない。
 穂乃果は、穂乃果は――。
 ぶんぶんぶんぶん。
 ぶんぶんぶんぶん、ぶんぶんぶんぶん、ぶんぶんぶんぶん――。

「埒があかないから蹴っ飛ばすわよ」
 夢の外で真姫ちゃんがベッドの穂乃果を蹴っ飛ばした。

 あいたー!
 穂乃果はベッドから転がり落ちちゃいました。

「真姫ちゃん!?」
 痛むおしりをさすりながら穂乃果は真姫ちゃんに向かって真姫ちゃんの名前を叫んだよ。
 真姫ちゃん?どうしてここに?ここは穂乃果の部屋だよね?
 とかなんとか。
 穂乃果のちっちゃなあたまにはケージジョー学的疑問が次から次へと浮かんできます。
(形而上学的、ということばの使い方が見当違いです。
 あと、穂乃果のあたまは別に小さくないのでは?鈍いだけで)
 海未ちゃんはうるさいっ。

「来ちゃった」って真姫ちゃんは言った。
 そんな彼女みたいなこと言われても穂乃果こまります。
 やれやれだぜ。

「穂乃果がちゃんとファイトしてるか確認しに来たのよ」
「ファイト?」
「ファイトだよっ」
「真姫ちゃんそれ穂乃果のせりふー」
「取らないで」
「それは真姫ちゃんの」
「座ってもいいかしら」
「うん。どうぞ。穂乃果は着替えてもいい?」
「ええ。見ていてあげるから」
「だめだよ」
 だめです。

 穂乃果は真姫ちゃんを追い出したよ。


     12

「あなたたち3人は呪われている」と真姫ちゃんは言った。
「ことり、海未、穂乃果。私はずっと以前から、あなたたちに最初に会ったときからその呪いの存在を感じ続けてきたの。それが呪いだってことに気づいたのはつい最近だけど」

 Q、呪いとはなにか。

「勉強机の抽斗にしまいっぱなしでそれきり忘れてしまったトマトのようなものよ」

 Q、もう少し具体的に。

「呪いとは抽象的なものなの。比喩でしか表現できないわ」

 Q、腐ったトマトのようなものが穂乃果たちに悪い影響を?

「ええ。ひょっとしたら海未もそれを感じ取っていたのかも」

 Q、海未ちゃんが?

「おそらくね」

 Q、でも海未ちゃんは歌詞のスランプで逃げ出したんでしょ。

「それは物事の一面にすぎない。別の面には呪いがある。そしてそれらは同じ現象なのよ」

 Q、では海未ちゃんはどこにいるのか。

「穂乃果とは別の地下室に」

 Q、地下室って?

「味がうすくて生焼けのフライド・グリーン・トマトしか食べさせてもらえないような場所よ」

 Q、もう少しわかりやすく。

「呪いによって秩序付けられた空間、時間。ことばが意味を失っていく場所」

 Q、???。

「理解は重要じゃない。大事なのは行動」

 Q、穂乃果も海未ちゃんも、その地下室にいるの?

「そう」

 Q、なんでこんなことに?

「逆にこちらが聞きたい。穂乃果は何をしたの?海未とどんな話をしたのか、教えて」

(穂乃果は海未ちゃんとの電話、およびメールについて話しました。
 具体的には第1章の出来事を詳しく説明しました。
 前にも説明したけど、前よりももっと詳しく説明しました。)


「それよ。あなたは海未が口にしなかったお願いを、先読みして聞いたわね。おそらくそれがいけなかったのよ。それが地下室への最初の扉だったのね」

 Q、そんなことで呪われた?

「呪いって、理不尽なものよ」

 Q、どうすればいい。

「言ったとおりよ。歌詞をつくること。はじめたことをきちんと最後まで成し遂げなさい」


「うん、たしかに、これは穂乃果のはじめたことだもんね」と穂乃果は言ったよ。「真姫ちゃんありがとう」
「いいえ」
「だけどそんな呪いなんてものが、どうして穂乃果の身の回りにあるんだろう」
「呪いは誰のそばにもあるわ。気づかないだけで。ただ、……」
「ただ?」

「これを言ったら穂乃果は怒らないかしら。私のつくる曲には、トマトをしまいこんだ抽斗を開けてしまう力があるらしいの」

「ふーむ」と穂乃果は言った。
「怒らないの?」と真姫ちゃん。
「怒ってもしかたないよ。それに、真姫ちゃんのせいじゃないんだよね?」
「そうね。それが、物事の正当な評価ね」
「呪いは最初から穂乃果の近くにあった」

 呪いは 最初から 穂乃果の近くにあったのだ。


     13


 日常は続く。
 真姫ちゃんがどう言ったって穂乃果には自分が呪われている自覚なんかはないわけで。
 とはいえ海未ちゃんがいないのは事実で。
 これが呪いの効果なのかなあ、でも本当に?
 海未ちゃんが失踪するのとさまぁ~ずの三村が台詞を噛むのはよくあることだし。
 だけどなあってうんうん考えてたら今日もスパーンと午前が終わって。
 いぇい、水曜のお昼だぜい!
 こんな風に毎日授業中にボーっとしてたら、穂乃果は本当に勉強ができない子になっちゃうんじゃないかな。
 ちょっとピンチ。
 でもまあ目下、それは重要じゃない。
 穂乃果は今日もことりちゃんと部室に向かった。
 ドアがちゃり、開く。
 すると、やや、なんたる。
 そこにいたのはにこちゃんじゃないか。
「って、なんでにこ君が!?」と叫びかけて沈黙。
 だってここはアイドル研の部室、にこちゃんは部長。
 むしろにこちゃんは休み時間ここでうだうだしてることが多いってのはもっぱらの評判。
 いいねー、うだうだ。
 穂乃果もうだうだしたいねー。
 でも穂乃果には歌詞をつくるという大事な任がある。
 うだうだはあとでしよっと思ってとりあえず部屋に入っていつものパイプ椅子に座った。
 後から続いてことりちゃんが入ってくる。
 穂乃果たちの位置関係はこんな感じ。
(長方形が机、○がにこちゃんだよ。)

   ○
 ┌───┐
穂│   │
こ│   │
 │   │
 │   │
 └───┘
   
    ○
  ┌───┐
穂│     │
.こ│     │
  │     │
  │     │
  └───┘
(掲示板用)

 にこちゃんは一瞬ひるんだみたい。
 なにか言いたそうな顔をして、でもなにも言わなかった。
 むむっ、なにも言わないつもりだね。
 じゃあ穂乃果だって口きかないもんね。
 なんでかはわかんないけど、そうして穂乃果とにこちゃんはだまりっこを始めた。
 先に喋ったほうが負け!
 穂乃果、きりりと顔を引き締めます。

 ことりちゃんは穂乃果とにこちゃんのただならぬ気配を察したのか。
 怪訝な表情で穂乃果たちの顔をゆっくりと交互に見た。
 ことりちゃん、これは女の勝負なんだよ。
 なんだかよくわからないけど、敵対しちゃったんだ。
 いや、別に敵対はしてないんだけど。
 よくわからん意地の張り合いがあるんだ。
 私、にこちゃんにぜったい勝たなきゃだから。
 ことりちゃんも私に協力して、というテレパシーを穂乃果はことりちゃんに送った。
 ことりちゃんは真剣な顔で首を縦に振ると。
 おもむろにスマホを取り出し、ほのにこを撮影した。
 ピース。パシャリ。なんでやねん。

 なんでやねーん!と思っても時既に遅し。
 穂乃果は笑顔でピースサインを繰り出してしまっている。
 ううっ、アイドルとしての本能が。
 今はマジな雰囲気なのにー!
 でも振り返ればにこちゃんは穂乃果以上の笑顔で「にこにこにー」までしてる。
 そして「しまった!」と思ったのか、顔の下半分を硬直させたまま、八の字眉毛で「たらり」と冷や汗を流した。
 うはは、おもろい。その顔をまたことりちゃんがパシャリ。
 冷や汗たらり。

 こうなったらやむをえん!
 穂乃果は勝負内容をにこにこ勝負に切り替えることにした。
 あいかわらずどうして勝負をしているのか。
 というかそもそもこれが勝負なのかどうかわかんないけど。
 とにかく負けるわけには行かないんだよ、ファイトだよ!
 穂乃果はあいかわらず硬直しているにこちゃんに向かって渾身の
「にっこにっこにー!あなたのハートににこにこにー!」を繰り出す。どうだ。
 繰り出す、と言っても無論無言で。
 無言ではあるが最高の笑顔で。パシャリパシャリ。
 やりきった。フォトジェニック。
 そして仕上げに勝ち誇ったスマイル。ふふん。
 どやっ! パシャリ。
 にこちゃんは眉間をピクピクさせて、一瞬ギラリと穂乃果を睨んだ。
 その目に光るは灼熱の炎。
 にこちゃんはそんな自分を諌めるかのように、ふーっと深呼吸。
 人差し指を立てて、チッチッチッという風に左右に振った。
 ことりちゃんがまたパシャリ。
 にこちゃんは椅子から立ち上がり、クルリと穂乃果に背を向けて。
 髪をくくってるトレードマークのリボンに手をかけた。
 一気にほどく。さらり、はらはら。
 にこちゃんから立ちのぼるは異様な気配。
 にこちゃん、これはあれか、大技を繰り出すつもりか?
 一気に決める気だね!
 奇しくもその時、風が吹いた。ざあっ。
 にこちゃんがしとやかに振り返る。
 口元には微笑を浮かべて。
 ありったけの美少女オーラをむんむんに撒き散らすにこちゃん。
 ぴゃー。
 こ、これはっ――!
 ことりちゃん、撮らない。パシャリしない。
 硬直するにこちゃん。
 どう反応するのが正解かわからない穂乃果。
 いそいそとお弁当を広げることりちゃん。

「……」
「……」無言のほのにこ。
「ほのかちゃ、ごはんたべよ?」
「あ、うん……そだね」
 5分後チャイムが鳴った。
 にこちゃんは最後まで喋らなかった。
 なにこれ。

     14

 練習はふつーにある。
 絵里ちゃんの「はーい、じゃあ2人組みつくってー」の合図とともに形成されるペアも。
 いつもなら1人余ってしまうのだけど。
 海未ちゃんがいない今は、私たちは8人。
 出来上がるペアは4組。
 誰も余らない。
 なんか寂しい。
 って思ってる穂乃果の目の前で花陽ちゃんが「ことりちゃん、準備体操一緒にやろう」とことりちゃんを持って行き。
 じゃあ今日は穂乃果は凛ちゃんと組もっかな、と思ってたら。
 凛ちゃんは「真姫ちゃん柔軟やるにゃー!」と真姫ちゃんを誘い。
 えっ、あと残ってるのって3年生、やばいっ。
 と焦っても、もうどうにもならない。
 サッと目を向けると希ちゃんは絵里ちゃんと組んでて。
 わーお、最後までペアが作れなかったのは穂乃果とにこちゃんだった。
 無言。


     15

 柔軟ってのはリズムが大事なわけで。
 2人の人間が力を合わせてやるならば。
 呼吸を合わせて一致団結してやらんけりゃならん。
 ところがにこちゃんと来たら穂乃果を蹴飛ばす突き飛ばす。
 負けずに穂乃果もにこちゃんにチョップして肩パンして。
 身体を柔らかくするどころの話じゃねえこれはもう戦争だ隙を見せたらやられる!
 てやんでいやられてたまるもんかこちとら江戸っ子でい。
「二人はなにをしているのかしら?希知ってる?」
「さあ……新しい遊びやろか?」
 悲しいぜ、えりのぞの冷たい視線。
 そんな目で見ないでくれよベイビーたち。
 シャランラ、パッパビドゥ。
 あうあう。


     16


 そして時は過ぎ日は過ぎる。
 穂乃果はそれからずっと失敗続きだった。
 にこちゃんを追いかけ、蹴られ、戦い、ほっぺを引っ張り合い、イーをして、ときどき泣いたり泣かされたりした。
 にこぉ。
 えがおもつきはてたぜ。

「穂乃果ちゃんげんきないね」
 話しかけてきたのは凛ちゃんでした。

「リンエルさま……」
「え?なになに、リンエル?」
「あっ、この地ではそれは禁じられた名でしたね!なんでもないよ、凛ちゃん!」
「よくわかんないけど。げんきない穂乃果ちゃんなんて穂乃果ちゃんらしくないよ、げんきだして」
「うー、ふぁいとぉ……ダメだー」
「にこちゃんと喧嘩してるの?かよちんも心配してたよ」
「喧嘩っていうか」
「凛、力になれるかわかんないけど、話し聞くよ?」

 い、いい子だ。

「実はね、カクカクシカジカ歌詞歌詞カキカキニコニコ蹴り蹴り」
「カクカクシカジカじゃよくわかんないけど……」
「穂乃果にもこれいじょう上手くなんて言えないんだよ。うう、がっくし」
「しっかりするにゃあ」
「穂乃果はもうダメだー。あんまり悩みすぎてまるでつらい恋でもしてるみたいだよ」
「恋?あのね、恋をしているなら、その気持ちをちゃんとことばに出すのがいちばんだって、かよちんが言ってたよ?」

 ことば?
 ことばという言葉を聞いたその瞬間、バーンと穂乃果の頭のなかでなにかが弾けました。ビッグバン。
 そうだ、ことばじゃん!

「ありがとう凛ちゃん!おかげで悩みが解決したよ!」
「え?そうなの?じゃあ凛はかよちんを待たせてるからもう行くね」
「意外とクールだね。ちょいちょい待ってよ、お礼がしたいから。さらさらさらー」
「さらさらさらー?」
「書き書き書きーの、はい。これあげる」
「なあに、これ」
「りんりんりんがべー」
「りんりんりんがべー?」
「恋のシグナルRin rin rin!だよ。この紙を持って真姫ちゃんのところへ行けばわかるよ、ほんじゃ凛ちゃんばいばーい。愛してるぜい」


     17

 そうだよ、そうじゃん、言葉だよ、ことばじゃん!
 穂乃果、ここんとこ、にこちゃんと口きいてなくない?
 しゃべってなくない?
 これってやばくない?あの火曜日以来だよ?
 今が金曜日だから、ひい、ふう、みいの、3日間もにこちゃんとしゃべってないんじゃん。
 ことば交わしてないじゃん。
 なくなくなくなくなくなくなくなくないじゃん!
 だめじゃんじゃん。
 穂乃果は書くんだよ、ことばを。
 ことばを書くのにことばを話さないんじゃことばなんか書けないんだよね。
 やあ、こんなかんたんなこと、どうして穂乃果わかんなかったんだろ。
 やっぱ穂乃果ちょっぴしばかなのかなあ。
 でも気づいたから天才?ジーニアス?
 だからさ、でも、今はもう気づいちゃったんだもんね、穂乃果、ちゃんと、ばっちし、ぱーぺきに。
 だからさ、だからさ、だからさ、ちゃんと話さなきゃだめなんだよ。
 にこちゃんと。
 にこちゃんと話すんだよ。
 にこちゃんがいくら穂乃果のこと嫌いだからってさ、でも穂乃果はにこちゃんのこと嫌いなんかじゃないわけで、むしろ大好きだし、だってにこちゃんだよ、だから穂乃果のほうから、にこちゃんに話しかけないでいるって理由はないんだよ、だって穂乃果はにこちゃんのことこんなに大好きなんだから、好きって気持ちで話しかけていやな気持ちなんかしないでしょう?
 ひょっとしたら穂乃果の大好きの言葉でぶつかれば、にこちゃんも穂乃果のことちょっとは好きになってくれるかもしれなくて、そしたらにこちゃんの好きの言葉ももらえるかもしれなくて、そしたらそれは素敵な歌詞になって、穂乃果は書いて、それが歌になって、にこちゃんの歌になって、穂乃果たちはそれを聴くことができて、どんどん歌詞は増えて、そうして9人全員の歌詞が出来上がれば、真姫ちゃんが言うように海未ちゃんは帰ってくるんだから、それってとってもうれしくてすてきなことじゃない、それで海未ちゃんが帰ってきて、にこちゃんも少しは穂乃果のことを好きになってくれて、そうなるんなら、ね、海未ちゃんもそう思うでしょ?

 だからさ、にこちゃんに話すんだ。
 海未ちゃん、そうでしょう?
 だよね。
 そうなんだ!

 そうですね、穂乃果がそう思うなら、きっとそうなんでしょう。

 だよね!
 行っくよ。
 走るよ。
 すぐに。
 飛ぶよ!

「にーこちゃん!」
 穂乃果は叫ぶ。
 にこちゃんの背中めがけて。
 いえい。
 いえーい。
 ぴーすぴーす。
 にこちゃんは振り返らないぜ。
 めげないぜ。
「にこちゃん!にこちゃん!」
 知らない人がこっちを見ている。
 びっくりした顔で。
 唖然とした顔で。
 呆れた顔で。
 軽蔑してるみたいに。
 でも知らない人なんかどうでもいいんだ。
 だっていま穂乃果はにこちゃんに話しかけてるんだから。
 これはにこちゃんへの言葉なんだから。
 だから他の人のことは今は関係ないんだ。
 穂乃果はにこちゃんに向かって叫ぶんだ。
「穂乃果はさー!言ったけど、前も言ったけど、にこちゃんの歌詞書くからさー!」
 ね、さっきから穂乃果、止まれなくない?
 足ずっと走ったまんまで。
 息きれて。
 あの階段走ってるときみたいにっ。
 どして?
 にこちゃんが走ってるから?
 にこちゃんを追いかけてるから?
 うおお、止まれやにこちゃん。
 あきらめないぞ、穂乃果は、叫ぶぞ。
 わはは、おい、ねえ、恥ずかしかろう、金曜日の夕方に、往来激しい屋外で、自分の名前をこんな風に叫ばれるのは。
 わはは、ねえ、穂乃果は恥ずかしくないぞ。
 うそ、ちょっと恥ずかしい。
 でも仕方ないんだもんね。
 にこちゃん逃げるから。
 穂乃果走ってもなかなか追いつけないから。
 だからちっちゃい声なんかじゃ伝わらない。
 穂乃果の言葉が届かない。
 だから穂乃果は大きな声で。
 言葉を。言葉を。
「穂乃果思うの!にこちゃんの歌詞なんだから、ちゃんと、にこちゃんと話して、言葉交わして、にこちゃんの言葉で書かなきゃって」
 ああん、ちがう、そんな言葉じゃない。
 そうじゃないよ。
 穂乃果はさ。
「にこちゃんは穂乃果がきらいって言ったけどー!」
 うえ、のどくるし。
 心臓バックバク。
 足、ふともも、燃えるみたいに。
 カバン。どこやったっけ。途中で捨てた?
「穂乃果はにこちゃんのこと好きだからー!穂乃果の!穂乃果のこと、あんまり、きらいにならないでー!」
 にこちゃんが立ち止まる。
 膝に手をおいて、肩で息して、吐きそうな顔。
 たぶん穂乃果も。
 ゲロ吐きそうで。
 気持ち悪い。
 最低。
 こんなの。
 わけわかんねーぜ。
「じゃなくってー!穂乃果、何言ってんだろ。がー、やっと追いついた、でも、くっそ、あー!もう!にこちゃん!ばか!穂乃果はさ、誰かに嫌いって言われたことなんかないんだから!くっそう、にこちゃんがはじめてだよ、穂乃果のこと嫌いとか、ふつう、ありえないっしょ、だって、穂乃果だよ、こーんなに、かわいくて、いい子で、愛らしくて、かわいくて、かわいいって二回言っちゃったけど、とにかくさ、こんな穂乃果のことみんなだいすきなはずなのに、海未ちゃんだってことりちゃんだって穂乃果のことだいすきって言ってくれるのに、なのに、なんで、どして、穂乃果のこと嫌いっていうかなあ。じゃなくって、そんなことはもうどうでもいいんだ、うそじゃないぜ、穂乃果は、穂乃果はにこちゃんのことが好きなんだから、だから、拒むな、拒むな!穂乃果を嫌いって言うな、証明するんだから、穂乃果がどんくらいにこちゃんのこと好きか、穂乃果の本気見せてやる、これが、私だ、高坂穂乃果だ」
 目の前にあるのは夕日に輝く黄金の膜みたいなもの。
 かぜでゆらゆら揺れて、光の刺が穂乃果の目を突き刺して。
 餌をもらえるかと思った鯉が金色の膜の表面に顔を出して、ぱくぱくーって。
 わはは。餌なんかやらないぜ。
 やるのはこれだ。
 みてろ。
 穂乃果だ。
 穂乃果は金色の池を囲った低い柵をよじ登って、よっし、ほら、行ける、見てろ。
 穂乃果の愛を!LOVE!NICOCHAN!ふぁいやー!
「にこちゃん好きだー!」
 そして穂乃果は池めがけて跳んだ。
 びっくりしてるみたいなにこちゃんを残して。
 なーんでかな、こんなことになるの。
 こんなとこに池なんてあるからいけないんだよね。
 びっくりしてるみたいなにこちゃんがこっちに手を伸ばして、でもその手は全然穂乃果には届かなくて、風が吹いて。
 全身を重い物で殴られたような衝撃が…………………………

 ばか!

 最後の瞬間ににこちゃんのことばが世界にひびいた。


     18

「ちょっと待って、その身体であがんないで。ほら、バスタオル使いなさいよ」
「あんがと」

 ずびびと洟をすすって穂乃果はにこちゃんが差し出したタオルを受け取る。
 かわいたタオルがじっとりとした髪をジュッと乾かしていく。
 穂乃果はうつむいて、にこちゃんちの玄関の絨毯をみて、なんか変な模様だなあこれ、おもしろいなあと思って、それからにこちゃんちの玄関でびしょびしょの状態という自分が最高におもしろいなと思って、いいややっぱしそんなの面白くない、寒い、最低、悲しい、つらい。

 あんなばかなことをするからです。

 うう、また海未ちゃんは死人に鞭打つようなことを。
 穂乃果だってばかだったって思ってるもん。
 ぶう。

「にこは穂乃果のことばかだばかだと思ってたけど、ばかじゃなくてクソバカだったのね」
「穂乃果だってそう思ってるってばー」
「あんた、さっきから何がそんなにおかしいの?」
「えー?」
「顔、さっきからばかみたいな顔してる。ばかみたいに笑ってる」
「穂乃果笑ってる?」
「知らないわよ、自分の顔でしょ」
「にこにこ」
「殺すわよ」

 穂乃果は自分の顔に触ってみました。ぐぐい。笑ってるかな。おかしいかな。
 くひくひ。

「ああ、ほら!早く拭かないからポタポタ垂れてる!」
 にこちゃんがタオルを奪い取って、穂乃果の頭を、肩を、ゴシゴシとやってくれる。
「くひ、くふふふ、くへへへ」
「大丈夫?アタマでも打ったわけ?」
「だいじょうぶだよぉ、にこちゃんが穂乃果を引っ張りあげてくれたからね、くふ、くふふふ」
「わけわかんないけど、……ちっ、お風呂入っていきなさいよ。着替えも貸すから。小さいとか文句言うんじゃないわよね」
「ん、あんがと」
「風邪でも引かれると迷惑なのよ。こっちは。ふざけんじゃないわよ。ほら、あと自分で拭きなさい」
 イライラして半分濡れたタオルを穂乃果の顔になげつけるにこちゃんはだけどやっぱり家ではお姉ちゃんなんだな、とか、お姉ちゃんのはしくれとして穂乃果はぼんやり思って、それがまた、くふ、くふふふ。ひひ。
 つらい、さむい、おかしい、くひ。くふふふひ。

「あんた、家の人に迎えに来てもらうとかできないの?」
「んー、お店が忙しいから無理かも」
「あっそ」
「きひひひ」
「だーかーらー、その笑いを」
「にこちゃん、穂乃果は歌詞を完成させたかも」
「なにいってるの?」
「ううん、これから書くんだよぉ。でもきっと完成するんだ、へへ、ふひひ」
「やっぱり頭を打ったのね」
「笑顔だよ」
「笑顔?」
「いひふへぅる」
「いひふへぅるってなに?」
「楽しいってことだよ」

 わけわかんない。
 そう言ってため息をつくにこちゃんの半身、穂乃果といっしょに水に落ちた体半分からも、ポタポタ水が滴っているのでした。くひひ。
 にこちゃんの背中には穂乃果にだけ見える天使の翼が生えていたのだった。

 ね、穂乃果ばかだね。
 あたまばかになったね。


     19

 うみちゃん、ほのかはにこちゃんの魂のいちばんおいしいところをみつけたよ。


     20

 夢を見たよ。
 穂乃果は5月の草原でことりちゃんと「=」の字になって寝ていたんだ。

 穂乃果ちゃんが真姫ちゃんに変なことを言われて、ことりはちょっと悲しかったんだ。
 ことりちゃんが仰向けになって空を見上げたまんま、言った。
 快晴の空に探しものでもしてるみたいだった。

 ごめんねことりちゃん。

 穂乃果ちゃんは呪いってあると思う?

 わかんない。

 正直に答えて。

 ことりちゃん、怒んない?悲しまない?

 言って。

 ひょっとして海未ちゃんとことりちゃんが穂乃果の呪いなのかな。
 ううん、ごめんね、急にそう思ったの。

 んー、だいたい正解、かも。

 怒んないで、ことりちゃんのことが嫌いでこんなこと言うんじゃないよ。

 わかるよ。だいじょうぶ穂乃果ちゃん。

 だいすきだもん

 うんっ。ことりも穂乃果ちゃんが好き。
 あのね、真姫ちゃんの言う呪いっていうのは、穂乃果ちゃん自身のことだよ。
 穂乃果ちゃんに含まれるこの世界のこと。
 私たちのこと。
 ことりと海未ちゃんのこと。
 真姫ちゃんの言葉で言うならね、それが呪いってものかもしれないってことりは思うの。
 ううん、きっとそうなの。

 ことりちゃんと海未ちゃん?

 そう。

 でもここには海未ちゃんはいないよ。

 今はね。
 でも起きてるときはいつもそばにいるでしょう?

 うん。そうかも。

 海未ちゃんもことりも、本当はこんな風にいつも穂乃果ちゃんのそばにいちゃいけないの。

 穂乃果が頭のなかで海未ちゃんといつもおしゃべりしてるのがいけないことなのかな。

 たぶんね。ひとはひとりで大人になんなきゃいけないから。

 でも言葉を交わすには相手が必要だよ。

 言葉は口で交わすもの。頭のなかで思ってるだけじゃ駄目なの。

 妄想の海未ちゃんとのおしゃべりはいけないこと?
 いつも穂乃果はことりちゃんとも、夢のなかでいっぱい喋ってきたよね。
 それもいけないこと?

 いつかやめなきゃいけないこと。
 海未ちゃんが穂乃果ちゃんの背中なら、ことりはおなか。
 じぶんの背中やおなかと口を利くなんてへんなことでしょう。
 だからやめるの。

 さみしいよ。

 でもだいじょうぶでしょう、穂乃果ちゃんは。
 笑顔になれるよね。

 うん、笑顔。

 笑顔なら大抵のことはだいじょうぶだよ、ね、穂乃果ちゃん。
 それに、穂乃果ちゃんの頭の外には、本物の海未ちゃんとことりだっているんだから。
 μ'sのみんながいるもん。きっとへいき。

 でも海未ちゃんは今はいないよ。外の海未ちゃんも。

 きっと帰ってくる。

 ほんとう。

 ほんと!

 わかった。信じる。わかるよ。
 ここにいるといろんなことがわかるんだね。

 ここは穂乃果ちゃんの夢の中だから。でもさめたら忘れてしまう。だから一番大事なことだけ、覚えて帰ろっか。

 いちばんだいじなこと?

 穂乃果ちゃんは、にこちゃんが好きだね。

 うん、好き。

 わかってる?

 わかってる。

 わかってないよ。穂乃果ちゃんははじめてひとを好きになったんだもん。

 はじめてじゃないよ。穂乃果はことりちゃんと海未ちゃんが好きだよ。

 その好きとはちがうの。

 ちがくない。

 だあめ、頭のなかの幼なじみに恋してるようじゃおとなになれないよ。

 おとなになんてならないもん。

 わがままさんだね。

 ぶう。

 穂乃果ちゃん、にこちゃんの背中に天使の翼が見えたよね?
 矢澤にこということばには天使のはねが生えてるよね?

 うう。

 ならそれをつかまなくちゃっ。

 あうう。

 だぁめだよ、穂乃果ちゃん。笑顔がだいじ。そ、笑って。ふふ、かわい。いつかわかるから。ぜんぶのことがさ。いまは急にわかんなくても。
 ね、そういえばさ、詩人にことばを運ぶのも、ミューズという女神さまのお仕事の一つなんだって。すてきだよね。

 ことりちゃんの顔に一匹の蜂が止まった。

 ことりもね、穂乃果ちゃんが真姫ちゃんに言われる前から、こうして夢のなかでお話するのもそろそろ潮時だと思ってたの。
 だからね、そんな悲しい顔しない。
 ピース、穂乃果ちゃん。

 ピース。

 あ、ほら、目が覚めるよ。
 いちばんだいじなことおぼえたね。
 笑顔、にこちゃん、好き。
 さ、行って穂乃果ちゃん。
 だいすきだよ。


     21

 いつもと違う匂いがして。あ。そっか、ここはにこちゃんの家だっけと思い出して。
 ぽかぽか暖かいお布団。くーっと匂いを吸い込んで。
 ぱっと吐いた。
 穂乃果はにこちゃんのお布団で寝ていたんだ。
 電気ついてない、もう夜なのかな?
 にこちゃんは?
 思って探すと、部屋のすみに真っ黒な犬みたいなのが体育座りしていて。
 それはにこちゃん。
 えへ。

 にこちゃんは穂乃果のことをジーっと睨んでいた。
 ずっと?
 なにか言わなきゃ。

「あのね、にこちゃん、穂乃果は夢を見たよ」
 ああん、もう!
 こんな言葉じゃないってのにー!

「にこもよく夢を見るわ」
「にこちゃんの夢?どんな夢?」

 にこちゃんは答えない。
 すっと立ち上がって、向こうの部屋に行ってしまう。
 電気をつける。パチリ。
 逆光でにこちゃんがなおさら真っ暗に見える。

 なにか言わなきゃ。
「ごめんね、穂乃果、ちょっと休んだら帰ろうと思ってたんだけど」
 これはずるい言葉。

「今からじゃ遅いでしょ。いいから泊まってきなさいよ」
 うん。こう。にこちゃんはやさしいから、きっとこう言ってくれる。思ってた。
「ちゃんと家に連絡するのよ、家の人が心配するから」

「あれ?にこちゃん、お家の人は?」

「おばあちゃんの家。泊まってる」
「にこちゃんは行かないの?」
「練習がある」
「ふうん、そっか。あ、そうだ。にこちゃん、好き」
「なにそれ」
「一番大事だと思ったから。にこちゃん、穂乃果はにこちゃんが好き」

 にこちゃんは大きなため息をついた。にこちゃんの体中の空気がなくなってペタンコになっちゃうんじゃないかというくらい大きなため息だった。

「ねえ、私を殺したいと思ったことはある?」とにこちゃんは言った。
「にこちゃんを?」
「うん」
「どうしてそんなこと聞くの?」穂乃果は悲しくなった。
「私は何度もある。高坂穂乃果を殺したいと。何度も思ったし、何度も殺した」
「穂乃果にはそんな気がしないけど」
「夢のなかで私は鏡の前に立っている。だけどその鏡にはにこじゃなくて穂乃果の姿が写ってる。私は怒って鏡を叩き割る。そこには粉々になった鏡の代わりに、穂乃果が倒れている」
「それは夢だよ、にこちゃん」
「もちろん夢よ。だけど確かなことがある」
「なに?」
「穂乃果はにこに近づかない方がいい」
「どうして?」
「夢は本当だから」

 うん、そうだ。
 夢は本当のことだ。

 夢?
 鏡?
 呪い?
 腐ったトマトのにおいがした。

「高坂穂乃果、あんたはばかね。きらきらしててにくたらしいくらい。誰かのことが好きだとか、そんなふうに無邪気に言えるのは、いいことよ。でもこの世には悪意ってものがあるの、あんたなんかにはわからない。にこは穂乃果が嫌い。大嫌い。みんなに好かれてる高坂穂乃果が嫌い。死ねばいいと思ってる。穂乃果のきらきらした光を粉々にして真っ暗に塗りつぶしてやりたい。にこはあんたが嫌い。誰よりもアイドルにふさわしい、にこの一億万倍きらきらしてる、高坂穂乃果が……」
 にこちゃんは本気だ。
 本当ににこちゃんは穂乃果のことが嫌いなのかもしれない。
 夢は本当のことだから。
 うう、だけどさ。
 ねえ、海未ちゃん?
 だけどだけどさあ。

「ねえ、にこちゃん。穂乃果にはね、呪いがあるんだ」
「呪い?」
「それは5月の晴れた日の草原のピクニックのようなものだよ。そこには気持ちのいい風が吹いていて、蜜蜂さんがぶんぶん飛んでるんだ」
「なんだか楽しそうね。それって呪いみたいに聞こえないけど」
「あるいは抽斗にしまいっぱなしでそれっきり忘れてしまったトマトのようなもの」
「ぜんぜん違うじゃない」
「呪いはドロドロにとけたミミズの脳みそみたいにもにゃもにゃして、穂乃果のおなかのなかで暴れるんだ。それはまるで悪意とか憎しみのように強い」
「にこに言わせればあんたのは悪意なんてもんじゃない」
「そうかな、にこちゃんに穂乃果のおなかのなかのことはわからないよ」
「わかるわよ。だってこんなにきらきらしてるもの。アイドルしてるもの」
「穂乃果の表面がきらきらしてるのはね、反射してるからだよ」
「反射?」
「にこにこにー。にこちゃんがくれたんだ」
「なにを」
「笑顔。にこにこ。アイドルは常に笑顔笑顔。穂乃果はさ、いつも笑顔のにこちゃんが好き」
「本当のにこは笑顔になんかなれないわ」
「でも穂乃果を笑顔にしてくれた。みんなを笑顔にしてる。好き、笑顔が好きなにこちゃんが」
「本当は笑顔なんか好きじゃないの」
「うそだよ。穂乃果はにこちゃんが好きだもん」
「論理的に喋ってる?」
「好きだよ」
「にこは嫌い」
「好きになってほしい。にこちゃんが穂乃果のこときらいだと穂乃果はいやだ。好きって言ってほしい。うそでもいいから。うん、うそでもいいよ。うそでもいいから好きって言って。いや、ううん、嫌いでもいいのかも。言葉がないよりは一億万倍。にこちゃん、穂乃果わかったよ、ことばは大切ってこと。うその言葉でもないよりマシなんだ。だから言って」
「あんた、それ告白の言葉としては最低よ」
「穂乃果には見えたんだ、天使のつばさがにこちゃんの背中に。ほんとうだよ。嘘じゃないんだ」
「にこに翼なんかない」
「ね、笑って。アイドルの笑顔は世界を変えるんだよ。えい、笑顔にしてやる、むりやり、えい」
 穂乃果は立ち上がって、にこちゃんに近づいて、(にこちゃんのにおい)、にこちゃんにさわって、(温度)、ぐいっと口の端っこを持って引き伸ばしてあげる。
「にこにこにー。ほら、にこちゃん」
「にこにこにー」
 にこちゃんはぶさいくに笑った。
 たぶん穂乃果もおんなじ顔してる。
 いえーい。
 ピース。
 ぜんぶがむちゃくちゃで、穂乃果はだんだんにこちゃんが何言ってるかわかんなくなって、穂乃果も何言いたいのかわかんなくなって、でも言葉は届いてぶつかって力を振るう。天使の祝福みたいに。


      22

「高坂穂乃果、笑顔についてもう一つだけ教えたげる。笑ってるときは嘘がつけないの」


      23

「だから今から言うのは、本当の言葉」

     24

「矢澤にこはね、本当は、ちょっとだけ、心の底から、本当に、高坂穂乃果がきらい。きらいになればなるほど、穂乃果のことがきらい」


     25

「じゃ、穂乃果もほんとうのこと言っちゃうけど、にこちゃんを好きになるほど、もっと好きだよ、とてもね」

     26

「ありがとう。私も穂乃果のことがきらい。とてもね」


     27

 翌朝。穂乃果はにこちゃんの家を出る。
「ありがとにこちゃん。この服、洗って返すから」
「いいから、そのまま練習のときに持ってきて」
「そう?じゃあまたね」
「また」
「見て、ヘリコプター、飛んでるよ」
「ほんとう。蜂かと思った」
「じゃ、ね」
 穂乃果は走りだす。
 ダッシュダッシュ、トゥーザスカイハイだよ。

「おはよう穂乃果」
 いつの間にか真姫ちゃんが並走してる。

「おはよう真姫ちゃん」穂乃果はもう驚かない。

「家に帰るところ?」
「うん」
「穂乃果、いい顔してるわね。うらやましい」
「えへへ」
「呪いはもう解けたわ」
「まだ真姫ちゃんと希ちゃんと絵里ちゃんとことりちゃんと海未ちゃんと穂乃果の分の歌詞を書いてないよ」
「いいのよ、そんなこと。大切なのは穂乃果が扉を開くことだったんだから。歌詞はまたゆっくり考えればいいわ。海未も帰ってくるし。合作でもしてみたらどう?よろこぶわよ」
「穂乃果たち、もう大丈夫だよね?ばらばらになったりしない?」
「ええ。大丈夫」
「でも、呪いはいつも穂乃果のすぐそばにあるんだよね」
「ええ、そうよ。地下室から出ても地下室はなくなったりしない」
「そっか。真姫ちゃん、これ」
「にこちゃんの歌詞ができたのね」
「うん」
「おめでとう」
「ありがとう」


 土曜の朝に鳴り響く無色なベルの音。
 穂乃果はすぐに電話に出る。笑顔で。だって電話にはすぐ出たほうがいいから。それはすごく大事な電話かもしれないから。

 電話はずっと沈黙している。
 まるで世界中の蜂が花のまわりで羽ばたきをしているようなそんな沈黙が続いた。
 穂乃果はずっとにこちゃんの服に顔をおしつけて笑顔で黙っていた。
 それから穂乃果は言う。言葉を放つ。
「海未ちゃん?」

「穂乃果」
 沈黙が形をとって言葉になる。

「海未ちゃん大丈夫、今どこにいるの?」
「穂乃果、今私はザッザッザッ」
「海未ちゃん?海未ちゃん海未ちゃん」
「ザッザッ、穂乃果、ごめんなさい、私、ザッザッ」
「あのね、海未ちゃん。すぐ帰ってきて。話したい言葉がいっぱいあるからね」
 ザッザッザッザッ。
「穂乃果、歌詞を書いたよ。3曲だけだけどね。穂乃果のスーパーすごい歌詞に、海未ちゃんきっとびっくりしちゃうよ」
 ザッザッザッザッ。
「あのね、歌詞を書くってすごいね。穂乃果、すごいたいへんだったんだ。いろいろ海未ちゃんに話したいことあるの。海未ちゃんのお話聞きたいんだ。だからね、だから、帰っておいで」
 ザッザッザッ。
 電話は意味のないノイズになって、沈黙になって、そして切れてしまう。

 海未ちゃんは今どこにいるのかな。
 穂乃果は少し心配する。
 海未ちゃんちゃんとご飯食べてるのかな。
 ひとりでさみしくないかな。
 穂乃果は海未ちゃんのことを考える。
 そしてとても心配する。とても。たいへん。
 でもだいじょうぶ。
 穂乃果は笑顔で言う。
 きっとすぐ海未ちゃん帰ってくるもんね。
 だって呪いはもう解けたのだから。
 世界はこんなにすてきに変わったのだから。
 穂乃果は笑顔なんだから。
(ね、そうだよね、海未ちゃん?)
 沈黙。
 妄想の海未ちゃんからの返事はない。
 海未ちゃん?
 海未ちゃんの気配はどこにも感じられない。
 無音、無音、無音。
 海未ちゃんがいない。
 海未ちゃん。
 海未ちゃんの声は穂乃果には聞こえなくなっちゃったんだ。
 穂乃果は泣きそうになる。
 でもだいじょうぶ、きっとまた会えるよ、海未ちゃんにも海未ちゃんにも。
 ことりちゃんにもことりちゃんにも。
 ね、だいじょうぶ。
 笑顔は魔法だから。
 きっとね。
 そうだよ。
 そうだよね。
 走ろう!
 飛ぶよ!
 飛ぶ!
 穂乃果飛ぶ!



「タイトルはもう決まってるのね」
「うん。まほうつかい……」

 まほうつかいはじめました!
 だよ!

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