純「はなみず」

唯「ちんちんつんつん」純「やめてくださいよぅ…」の続編


風邪をひいた。

こんな日についてない。

純「今日は唯先輩のライブの日だってのに……」

憂のお姉ちゃんと私、鈴木純が付き合い始めてからけっこう長い月日が経っていた。

先輩はやさしいし、かっこよくて、私には勿体ないくらいの恋人だと思う。

でも最近、私は欲求不満をためこんでいた。

高校生の時は毎日でも会えたのに、先輩が大学生になってからは会えるのも休日だけ。

メールの数だって最初は多かったのに、今じゃ一日に数えるほど……。

そんな中、先輩達の大学でのライブはせっかく会うための良い口実だったのに、肝心の当日になって寝込んでしまうなんて。

純「私ってひょっとして、幸薄い?」

美人薄命ってやつかなあ……。涙が出てくる。

私は、涙腺を下って鼻から出てきた液体をちーんとティッシュでかんだ。
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はなをすする。何度もかみすぎて、もう鼻の頭がひりひりしている。

純「熱がなくてもこんなみっともない顔じゃ先輩の前に出れないよね。」

そう言い聞かせて何度も自分を慰めた。

でも、もういいんだ。カーテンの外からは赤い西日が差しこんでいた。

もう先輩のライブは終わったはず。

今頃はきっと、先輩たち四人で打ち上げでもしてるんだろな。

憂と梓も向こうに行ってるかな。……ああ、切ない。

薬を飲んで朝から寝ていたおかげか、朦朧としていた頭も今はすっきりとしていた。

こうなるとただ寝ているのは退屈でならない。

…打ち上げ、押しかけちゃおうかな。

ふとそんな考えが頭をよぎるけど、論外だ。

病人が現れたりしたら場が白けるに決まってるもん。

仕方ないので私はベッドに寝たまま一人ちんぐり返しに興ずることにした。
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ちんぐり返し。寝転がった状態で下半身を持ち上げて頭の上に持ってくる恰好のことだ。

耳慣れない言葉かもしれないけど、たいていの人がこの体勢に馴染みが深いものと思う。

要は赤ん坊のおむつを替える時にするあれだ。

私は暇つぶしによくこの遊びに励んでいる。

たかがちんぐり返しと侮るなかれ、一人ちんぐり返しはけっこうハードな運動なのだ。

バランスを取るのが難しく、油断すれば倒れてしまいかねない。

将来的にはオリンピック競技として採用されたっておかしくはないと睨んでいる。

このちんぐり返し、女の子の場合はまんぐり返しと言うのが普通だけど…

私にはおちんちんが生えているので男性同様ちんぐり返しと呼ぶのが正しいはずだ。

純「よーし、ちんぐり返しだー!」

反動をつけて一息に下半身を持ち上げる!

よし、うまくいったぞ……あとはこのままバランスを保ちつつ、

憂「純ちゃん、なにやってるの?」

純「うひゃあ!?」

部屋の出入り口に私の親友にして先輩の妹である平沢憂が立っていた。
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純「う、憂!?」

憂「やっほ、お見舞いにきたよ、純ちゃん。一応ノックはしたんだけど…気付かなかったみたいだね」

純「あ、あははは。ぼーっとしてて!」

やばいやばいやばい。たいへんなとこをみられてしまった。

なんとかしてごまかさなければ。

純「せ、先輩のライブはどうだった?」

憂「大成功だったよー。」

純「そっかー、よかったー。いやー、大成功かー。」

憂「それで純ちゃん、さっき何してたの?」

純「え? 何って、わたし何かしてたんだっけ? 憂の見間違えじゃないかなー」

憂「確か一人ちんぐり返しとか……」

ちくしょう。

しっかり見てやがった!
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純「おねがい、憂! 唯先輩にはこのこと内緒にして!」

憂「このことって?」

純「う…だから、その、私が…ちんぐり返しをしてたこと」

憂「えへへ、どうしよっかなー」

純「いじわるしないでよお! 先輩にへんな子だと思われたら嫌われちゃうよ!」

憂「冗談だよ、純ちゃん。分かった、お姉ちゃんには内緒にしとく。」

純「ほんと?」

憂「うんっ。ほんとだよ。」

純「ほんとにホント?」

憂「本当に本当だよ。」

純「よかったー、恩に着るよー。」

私は安堵のため息をついた。

そもそも憂に見られてしまった時点で何も良いことはないけど、唯先輩に知られないだけましだ。

もうちんぐり返しは今後一切しないことにしよう。
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はなが垂れそうになってるのに気付いて音をたてないように軽くすする。

憂「……風邪、どう?」

純「うん、もうだいぶいいよ。」

憂「そっか、よかった。」

純「こんなことなら、先輩のライブ観に行けばよかった。」

憂「だめだよっ!」

純「わっ。」

憂「風邪はきちんと治さなきゃ、めっ。」

純「……うん、そうだよね。」

憂「お姉ちゃんの演奏ならいつでも観れるんだから、今はしっかり休むのが先決だよ。」

純「はーい。憂はお母さんみたいだなあ。」

憂「えへへ。」

照れてほほ笑んだ顔が、唯先輩によく似ている。

これは憂だって分かってるのに、思わずどきっとしちゃった。

純「唯先輩、なにか言ってた?」
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憂「お姉ちゃん?」

純「ライブ観に行けないこと、怒ってなかった?」

憂「ううん。お姉ちゃん、純ちゃんのことすっごく心配してたよっ。」

純「そう? あーあ、やっぱりライブ観に行きたかったなー。」

憂「純ちゃん、お姉ちゃんのことそんなに好きなんだね。」

純「あったり前じゃん。私の先輩への愛は好きなんて言葉じゃ足りないもん。」

憂「……」

純「なんで憂が照れるの?」

憂「ふえっ? べ、べつにっ。いやあ、お熱いなあと思って。」

純「まあね。風邪の熱なんかめじゃないくらい熱いんだよ。」

憂「情熱だね、純ちゃん。」

純「えへー。」

はあ……でもやっぱりさびしい。自然と溜息をついてしまう。

憂「やっぱり、ライブ行きたかった?」

純「うん、まあそれもあるけど…」
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それだけじゃなくて、ここに唯先輩がいないって言うのがね……。

憂に悪いので口が裂けても言えないけど、お見舞いに来てくれたのが唯先輩だったらなー、なんて考えてしまう。

私は悪い子です。先輩は忙しいんだから、来れないってわかってるのに。

それでも……って思っちゃうのは、恋する乙女のわがままだ。

憂「あ、これお見舞いの果物。」

純「こんなにたくさん……なんか悪いね。」

憂「いいよー。今、リンゴ剥いてあげるね。台所にナイフあるよね?」

純「ほんとに何から何まで悪いなー。」

憂「うふふ、将来は『平沢純』になる人なんだから、このくらいはしてあげないとねっ。」

そう言うと憂は小走り気味に部屋を出て行ってしまった。果物ナイフを取りに行ったのだろう。

それにしても、「平沢純」って、唯先輩まだ言ってるんだろうか。

純「まあ……満更でもないけどね。」

憂「なにが?」

純「うわあ!?」
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ちょっとは足音をさせてよ、憂!

憂「ご、ごめん。びっくりさせちゃった?」

純「ん、いや、まあ……忍者かと思った。」

憂「何言ってるのー。」

この短時間で台所まで行って戻って来たらしく、その手にはちゃんとナイフが握られていた。

……あれ? なんか不吉な予感がする。なぜだろう……

黄昏時の部屋に、包丁を持った唯先輩の妹と、唯先輩の恋人の私が二人。

いやいや、そんなまさか。

なんとか選手という言葉がふと頭をよぎった気がするが、そんなのはまったくの気のせいだ。

うん。

憂「じゃ、皮むくね。」

純「あ、ああうん。」

失礼だよね、そんな妄想。
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それにしても、この姉妹はよく似ている。

ほんとは一卵性双生児なんじゃないかと疑ったこともあるが、年齢も誕生日もまるで違うんだからやはり普通の姉妹なんだろう。

髪型が違わなかったら恋人の私でも間違えかねない、そのくらいそっくりだ。

でも似ているのは姿だけで、中身は違う。

例えば、唯先輩はギター意外からきしだめだが、妹の憂は家事万能の正義超人で、ほら、こんなリンゴの皮むきなんてちょちょいのちょいで、

あれ? 憂、なんか手際悪くない?

純「ねえ、今日のライブのこと聞かせてよ。」

憂「それがね、おっかしかったんだよー。」

純「なになに。」

憂「うん、始まる前にね、りっちゃんったらね。」

ん? りっちゃん?

憂「ん、じゃなかった! 律先輩がね…」

純「ああ、うん。」

なんか様子がおかしい。あやしいな。
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憂「……だったの。それで澪先輩がー……」

純「あはは!」

憂「はい、リンゴ剥けたよ。」

いつのまにかリンゴはすっかり皮をむかれて(少々無骨なかたちだけど)四等分されてお皿に並べられていた。

純「ありがとう。」

一口かじる。考えてみれば朝から何も食べてなかったので、甘い味が舌に嬉しい。

憂「純ちゃん、ちょっときいていい?」

純「なあに?」

憂「お姉ちゃんと、最近うまくいってる?」

純「そういう質問ですか……」

憂「聞いちゃダメだった?」

純「ううん、そんなことないよ。」

リンゴを飲み下して、天井を見上げる。

純「うまく、いってると思うんだけどねえ。ただ……」
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憂「ただ?」

純「先輩が卒業してから、あんまり会えてないからさ…それがちょっとさびしいって言うか。」

憂「……」

純「メールだってこの頃すくないし、大学で忙しいのは分かってるけどさ、それでも…」

憂「純ちゃん……」

純「ひょっとして、向こうで新しい恋人でも出来ちゃったんじゃないかとか心配になったり。」

憂「お姉ちゃんに限って浮気なんてしないよ! 純ちゃん一筋だもん。」

純「あはは。こんなこと言ってたの、唯先輩には内緒だよっ。」

憂「…うん。」

私はリンゴをもうひときれほおばる。

憂は言葉を選ぶように視線を宙に泳がせて、それから言った。

憂「つまり純ちゃんは、最近えっちが少なくてさみしいんだね。」

純「ぶっ。」

はなみず吹いた。ついでにリンゴも。
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純「ちょっ、いきなり何言ってるの!?」

憂「わ、大丈夫? 服汚れちゃったね。」

純「わかい娘さんがえっちとか言うんじゃありません!」

憂「えー、でもそういうことなんでしょー?」

憂ってこんなキャラだったっけ……っていうかちがう!

私は断じてえっちとかそんな話を……

憂「私ハンカチ持ってるから拭いてあげるね。」

純「ああ、うんありがとう……。憂、ちょっとは人の話聞こうよ。」

憂「えへへ。」

憂は嬉しそうな顔で私の胸元に付着した染みをぬぐう。

ん…拭うっていうか、妙にいやらしい手つきで、これはつまり私の胸を……。

純「………………あの、唯先輩?」

憂「ほえっ?」
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純「……。」

憂「え、お姉ちゃんがどうかした?」

純「……憂じゃないよね。唯先輩だよね。」

憂「なにをおっしゃるうさぎさん。わたしはういだよ。」

純「嘘だ! 発音とか絶対不自然だよ! 私の目を見て言って!」

憂「まっさかー、あはは、私が唯なわけないじゃん、純ちゃんったらおっかしー。」

純「だってさっき胸揉んだでしょ! あんなやらしい手つき唯先輩以外にないよ!」

憂「……。」

純「さっき間違えて『りっちゃん』って言ってたし!」

憂「あう。」

純「リンゴの剥き方も憂にしては下手すぎるもん!」

憂——じゃない、唯先輩は後ろでくくっていた髪留めを外して変装を解いた。

唯「……。純ちゃん、ひどいよお……。」

純「ひどいのは唯先輩ですー。」

まったく、私を騙してたなんて。そりゃ、騙される方も大概だけど……。
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唯「二人っきりのときは『先輩』は付けない約束なのに。」

純「この際、そんなことはどうでもいいですから。」

唯「ぶー。」

純「…なんで憂のかっこなんかしてたの?」

唯「これぞ忍法・姉妹入れ替わりの術だよ。」

純「忍法・姉妹入れ替わりの術?」

なんですか、その頭の悪そうな術は。

唯「ライブ終わった後、ほんとは打ち上げとか参加しなくちゃいけなくってさ…

 サークルの先輩とかも居るし、断れない雰囲気で…。

 でも純ちゃんに早く会いたかったから、身代りに憂を置いて抜け出してきちゃいましたっ! てへ?」

純「…。」

唯「きゅんと来ちゃった? 会いたかったよー、ハニー!」

純「呆れてるんですー!」

唯「最近、純ちゃんきびしいなあ……。倦怠期かなあ…でも、いろいろ聞けちゃったからいいかな。」
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純「あう。」

唯「『私の先輩への愛は好きなんて言葉じゃ足りないもんっ!』」

純「あああああ! やめて!恥ずかしいやめて!」

唯「『風邪の熱なんか、めじゃないくらい熱い……!』」

純「人でなしー!」

唯「えへへ、うれしいにゃー。あんなこと言っちゃうんだねー。」

純「熱の言わせたうわごとですから、きれいさっぱり忘れてください!」

唯先輩は急にまじめな表情を作ると、私の横たわるベッドに膝を置いて顔を近づけてきた。

か、かっこいい顔で迫らないでよ。

唯「『あんまり会えなくて寂しい。』」

純「……言っときますけど、この流れでキスしたら怒りますからね。」

唯「えー。」

純「えー、じゃないの。風邪うつっちゃうでしょ。」

唯「うつしてもらいたいのに……」

それは私が困るのです。唯先輩に風邪なんか引かせたら憂に顔向けできません。
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唯「…じゃあ、ぎゅってするのは、だめ?」

純「ちょっとだけですよ。」

唯「…ぎゅー。」

純「はい、おわり! 離れてー。」

唯「えー、短いよお! もっともふもふしたーい!」

純「だーめです。」

唯「純ちゃんのけち。」

純「けちじゃありません。」

唯「フェチ。」

純「フェチでもない。」

唯「じゃあ、シャチ?」

純「じゃあってなにがだ。」

唯「シャチ・ウナギ・タコ!」

純「…ああ、日曜日だもんね。」

仮面ライダー観忘れました。
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唯「ねえ、アンクちゃん。」

純「アンクじゃないです。」

唯「純ちゃん、さびしい思いさせちゃってごめんね。」

純「愚痴聞くなんて、最低ですよ。」

唯「ごめんね…純ちゃんのことなんでも知りたかったんだもん。純ちゃん隠してばっかだし。」

純「私そんなに正直じゃないかな…。」

唯「一人でちんぐり返ししてることだって知らなかったよ。」

純「ひああああ!」

そういえばそうだった!

さっきの憂は唯先輩の変装だってことは、ちんぐり返し見られたのも唯先輩ってことじゃん!

唯「あんなことして、そんなに欲求不満が溜ってたんだね……」

純「あれはそういうんじゃないよ!」

唯「我慢しないでいーのにー、セックスしようよー。」

純「先輩のすけべー!」
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唯「なんだとー、言ったなー? 食らえっ、ちんぐり返し!」

唯先輩はやにわに私の両足首を掴むと体ごと転がして私をむりやりにちんぐり返しの恰好にしてしまう。

足掻いてどうにか抜け出そうとするががっちり掴まれていて身動きできない。

この人はこの細い腕のどこにこんな力をしまいこんでるんだ? 覇気?

唯「うふふー、いいかっこだね純ちゃん。それじゃイイコト、しよっか?」

純「先輩のへんたい! ごうかんまー!」

唯「ぶー、ちゃんと性技超人って言ってよー。」

純「それ字が違いますから!」

唯「おちんちん見ちゃおっかなー。」

純「やだっ、ほんとにやめ……へ、へ、へ、へっくしゅん!」

びちゃ。

純「あ…」

——まあ、なんということでしょう。

風邪ひき純ちゃんから放たれたくしゃみは、涎とはなみずを効果的に空中運搬し、

唯先輩のお顔にお届けしてしまったのです。それはもうべったりと。
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唯「…」

唯先輩ははなみずと涎まみれのまま茫然といったていで私を見ている。

え……なんでなんにも言わないんですか? ひょっとして怒ってる?

もしかしなくても怒っちゃってますか?

純「その……ごめんなさい。」

唯「ううん、今のは私が悪かったよ。」

まあそれは尤もだ。あんな手荒なこと、性欲に駆られて病人にすることじゃない。

それは尤も、もっともなんだけど、でも、唯先輩、それ絶対に

「うんっ、ゆるしてあげるよハニー! なんにもきにしないでっ!」

って顔じゃないですよ。

嵐の前の静けさというか、台風の目と言うか、むしろ投石機は真下が一番安全だっ、て感じの表情じゃない?

純「いやいや、ちょっと待て、何考えてるんだ私、おちつけ…」

唯「ねえ、純ちゃん。」

純「はい!」

そんなにびくびくするなよ私、卑屈だなあ。
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でもやっぱ唯先輩はこわい。なにするか分かんないからこわい。

普段は優しい人なんだけど、つまり、なんというか、今までの経験上具体例を挙げさせて貰えば……

いや、やっぱりこれは思い出したくない。

純「な、なんですか。」

半分涙目になりながら、ずずっ、とはなをすする。

唯「風邪、やっぱりまだつらい?」

ん? いや、それは確かにまだ治りきっちゃいませんから……

唯「楽にしてあげるね。」

と言うと唯先輩は私の頭をぐいっ、と引き寄せ、そこに自分の顔を近づけてきた。

これはまさか、平沢家伝統キスして風邪をうつしてどうこうとかいうあれ!?

いやいや、そんなのだめだってー!

…なんて甘いこと考えている私にはもっとハードでありがたくない現実、

あるいは妙ちくりんな愛の行為が待ちうけていた。
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唯「ちゅ。」

純「ほえ。」

先輩の唇が音をたてて接触する——私の鼻に。

そして先輩は私が逃げられないように頭をがっしりつかんだまま、

舌を一方の鼻の穴に差し込んだ。熱い感触が顔の中心に押し寄せる。

純「ふぐっ、ええ!?」

先輩はぐりぐりと舌を鼻におしつける。

愛撫する時のような繊細さで舌を押しこんでくるが、やはりそこは普通いじる場所じゃないので痛い。

というかそこは舐める個所じゃないです。

純「ふが、しぇんぱっ、ばっ……ああ!」

先輩、ばっちいですからやめてください!の一言すら満足に言えない。

それでも言葉が通じたのか舌を抜き取ってくれた。
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ひりひりして、穴が拡がっちゃったんじゃないかとちょっと心配になる。

ところが……というか、もちろんというか、猟奇的な彼女の奇行はそれで終わらない。

唯「ずずー。」

唯先輩は口をすぼめるような形にすると、私の鼻の穴から直接はなみずを吸い始めた。

純「んああ!」

これには私もたまらず先輩を押しのけようとするが、先輩はがっちり掴んで離れない。

離れない。離れない。こわい!

唯「ずず……んー。よしよし。」

吸いながらいい子いい子するように先輩は私の後頭部をやさしく撫でる。

そんなことで誤魔化されたくない、と思うんだけど、やっぱりそうされると嬉しくて抵抗する気が失せてしまう。

純「……んぐぅ。」

唯「へんほへんほ。」

なにか言ってるが口をつけたままなので全然わからない。
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純「ははんはういへふおー。」

返事しようとしても、私も何言ってるのか分からない。

鼻を吸われたままで出す声と言うのは、鼻声というのを超越して一種異様な声だ。

こんな知識、ふつうに生きてたらまず間違いなく知らないよ。

はなみずは泉の水のように次から次へと湧いて出て、私の鼻から唯先輩の口の中へと渡されてゆく。

唯「…ずずー、ん、ごくっ。」

ああ……飲んでるよ、先輩。いやだなあ……

唯「ずっ……すん、すん。」

ようやくはなみずが尽きたのか、もう先輩が息を吸い込んでも空気しか通らなくなった。

お陰さまで鼻の通りが抜群です。でも鼻から直接唯先輩のよだれのにおいがする。

唯「…こんどはこっち。」

純「まひゃっ!? まだやるんでしゅか……ふぐっ!」

先ほどとは反対の穴に舌を挿しこまれる。

今度は先ほどより慣れたのか、一回目よりもすばやく舌が奥まで到達した。
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鼻の穴が裂けてしまいそうな痛みを感じる。

……この痛みは、いつかおしりに指を入れられたとき以上かもしれない。

ああ、へんなこと思い出しちゃった。

いや、でもこないだはもっとすごいのが……

唯「ずずずー。」

純「ふやあっ!」

などと油断している暇はない。

舌を挿しこんで通り道をつくると、すぐに抜き取って同じように中の粘液を吸い始めた。

おまけに、頭を押さえていない方の手が体をまさぐりながら徐々に下腹部の方へと近づいていく。

服の上から触られてるだけなのに、このいやらしい手つき……

人類は唯先輩にギターなんて与えちゃいけなかったのかもしれない。

唯先輩の手はスリ顔負けの手際の良さでズボンに潜り込み、私のおちんちんに到達した。

唯「んー?」

純「はう……」
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触られてはっきりした。

私は勃起していた。

唯「へふー。」

なんですかそのへんな笑い声は。

どうせ私は好きな人になでなでされながら、はなみず吸われておちんちんを硬くしちゃうようなエッチな女ですよ。

純「うう……」

いっそうやさしく頭をなでなでしてくれた。

気持ちいい。

唯「ずず、ずずー。」

でも吸うのはやめてくんないんですね。

ズボンに入り込んだもう一方の手はペニスに触れたまま動かさずに置いてくれるので助かった。

この状態で下までいじられてしまったら、情けないやら、なんやらで、もう生きてはいけないはずだ。

もう充分に情けなさの限界点を通り越しているのでは、という疑問は私の精神の健康のために捨て置くことにする。
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唯「ずずー。」

ゆっくりとした速度で、着実に唯先輩ははなみずを吸いこんでいく。

先輩が私のはなみずをすする音の中で小さく、

ぷふー、と先輩の荒い鼻息の音が聞こえた。

純「……。」

やがて音が止まり、先輩は私から顔を離した。

つ、と私のはなみずと唯先輩のよだれの混合物が糸を引く。

先輩はいつになく上気した、赤い顔をしていた。

ああ……泣きたい。

唯「ごちそうさま。」

おそまつさま。

とでも言うと思ったのか。

純「くたばれ。」

かわりに私はクッションでにっくき変態の顔面を殴ることにした。
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唯「ぶへっ。」

純「もうやだ! うう! ばか! どあほ、死ね! さいてー!」

両手で掴んだクッションで何度も先輩を打ちつける。

てれかくしなんかじゃない。わりとほんきのにくしみだこれは。

唯「ちょ、純ちゃんたんま、たんま! ごめん、ゆるして、ごめんってば〜!」

純「ううう!」

唯「も〜っ、いやなんだったら、いやだって途中で言ってよー。」

純「言えなかったよ!?」

唯「あれ、そうだっけ?」

純「くそばか!」

唯「こら、汚いことば使わないの。」

言葉なんかより先輩の行為が汚いというつっこみはなしだろうか。

純「うう〜……鼻がひりひりしますよう……」

唯「ごめんごめん。でも、鼻の通りよくなって楽になったでしょ?」
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はあ、それはまあ確かに。

唯「よかったよかった。純ちゃんはお風邪が楽になって、私はおいしい純ちゃんが味わえて。」

純「よくないですっ!」

唯「え〜?」

純「これ、二度とやっちゃだめですからね。」

唯「え、んん、んふふ〜、わかったー。」

純「私の目を見て言ってよ。」

唯「わかった?」

純「疑問形じゃなくて。」

唯「わかんない!」

純「堂々としないで!」

唯「まあまあ、落ち着いて落ち着いて、病人なんだから暴れないの。」

純「唯先輩が興奮させてるんですぅ……」

ああ、なんか熱が上がってきた気がする。

ほんとにひどいひとだ。
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純「……なんでこんなへんなことするんですか?」

唯「だって純ちゃんおしっこ飲ませてくれないんだもん。」

純「そうじゃなくって……」

唯「好きな人の体から出るものなら、なんでも飲めるよ、私。」

純「……」

唯「きゅんってした?」

純「いえ、さいていです。」

唯「え〜?」

えーじゃない。

先輩のきゅんきゅん概念っていったいどうなってるんだろう。

はなみずすすられて人を好きになる女の子って唯先輩の頭のなかにしかいないんじゃないだろうか。

唯「純ちゃんだって、言ってくれたらいつでも私の飲んでいいんだよ?」

純「いらない。」

ぜったいに。
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唯「あはは。——まあ、それとこれは、純ちゃんに対するおしおき、かな。」

純「……え?」

おしおき?

やっぱり唯先輩、ライブ観に行けなかったこと怒ってたのかな。

意外な成り行きに思わず体を固くしてしまう。

唯「だーって純ちゃん、『唯先輩』ばっかりで、ちっとも呼び捨てしてくんないんだもん。」

純「あ……」

お仕置きってそのことですか。

純「それは、その…やっぱりまだ慣れないというか、努力はもちろんしてるんだけど……」

唯「さみしいなー。」

純「ごめんなさい。」

唯「んふふ、まあいいよ。」

この笑顔は、「これは貸し一つだよ、純ちゃん」の意味な気がする。こわい。
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唯「純ちゃん、今度はちゃんと私のライブ観に来てね。」

あ、やっぱりそっちも気にしてたんだ。

純「はい。もちろん。」

唯「ん。じゃあ、そのためにも今日はゆっくり休んで風邪をしっかり治そ?」

唯先輩は私をベッドに横たえさせ、毛布を体にかけてくれる。

せんぱい、やさしい。

直前までゆっくり休まれないようにしていたのは当の唯先輩だという事実にはこの際目をつぶろう。

唯「ぼーやはよいこだ、ねんねしなー。」

純「こどもじゃないです。」

だけど不思議とすぐにまぶたが重くなる。

朝からずいぶん寝たはずなのに、眠くなるのおかしいな……

唯先輩の声を聴いてると、魔法みたいに安心して……

…………………………………………………………。
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再び目が覚めたときは夜中。もう唯先輩の姿はどこにもなかった。

立ち上がって電気をつける。

勉強机の上に、一枚の紙切れと鍵が置いてあった。

『我が最愛なる純ちゃんへ

私の寮の部屋の鍵を授けましょう

会えなくて寂しいのはいやだからどんどん会いに来てね

ただし、周りの人にばれないようにこっそりと!

ゆっくり寝てはやく元気になってね

かわいい恋人より』

鼻をすすろうとして、もうすっかり鼻の通りがいいことに気づく。

純「自分でかわいいとか言うか。」

たしかにかわいいけどね。世界で一番。まちがいなく。


——すっかり風邪の治った私が、交替に風邪を引いた彼女の部屋を襲撃に行くのはその三日後の話。


お し ま い

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