和「どうしたの?」唯「私は悪い子だったようです」.txt


時々どうしようもない思いに捉われる。
それは初め、心の表面に発生した思いつきに過ぎなくても、時間が経つにつれて精神の奥深くに食い入って、最終的には私という存在の中心に居座ることになる。
悩みというほど深刻なわけじゃない。
その思いは異物で、のどの奥に何かが引っ掛かっていて咳が出そうな感じ、というのに一番近い。
咳が出てその何かが吐き出されてしまうまで耐えるしかない。

心の表面に発生した思いつきはたいていの場合、根を張らずに流される植物の種子のように消え去ってしまう。
その中で、本当にさっき言ったような状態にまでなるのは本当にごくわずかだ。
そういう時々しかあらわれないやつは、決まってしつこい。
自然な解消を待つならば、少なくとも一週間はそいつと付き合わなければならない。

効率よく、それを消してしまえる手段も心得ている。
誰か話をよく聞いてくれる人に、その思いをすべて打ち明けてしまえばいい。
異物は身体の中から抜け出て、二人の会話の空間の中へと溶け込んで、無害な物質に変わる。
ただ、それが案外難しい。
話す相手は慎重に選ばなければいけないからだ。
そうでなければ、引っ掛かった思いを解消するどころか、よけいに気持ち悪い思いをしかねないことになる。
これには二つの理由があって、一つにはたぶん私が悪い。
頭の中に収まってる思いは常にもやもやとしていて、自分ではちゃんと把握できているつもりなのに、相手に説明しようと思うと言葉がつっかえて、その形をうまく伝えることができない。
ちょうど雲の形を眼でははっきり分かっていても、言葉で表そうとすれば困惑してしまうのと同じことだ。
聞き手は、私のことをよくわかってくれて、私の曖昧な言葉を整理し、話の向かう先を先回りして待ち構えててくれるような人でなければならない。
そんな夢のような人は親しい人の中にも、指で数えるほどしかいない。
もし私がもっとうまく言葉を喋れたなら、そうはならないだろう。
頭で思うことよりも、口で話すことはずっとむずかしい。

もう一つの理由は、話の深刻さを取り違えられると、たとえうまく話すことができたとしても、相手には本当のことはなにも伝わらないから。
あまり真剣な悩みとして受け止められて、心配されたりすると、話しながら次の言葉を探すのも困難になる。
かといって、ジョークのつもりで聞いてもらうのも困る。
前者には憂やあずにゃんが含まれる。
彼女たちは真剣に話を聞いて、私の「悩み」を真剣に共有しようとしてくれる。
私のことを気遣う彼女たちの暖かさは本当にありがたいし、愛おしい。
しかし、話を聞いてくれる彼女たちの深刻な顔を見ていると、初めはちょっとしたひっかかり程度のつもりだった思いが、次第に人生の一大事と言ったような様相を呈してくるのには困る。
話し終えたときには、話す私と聞く彼女たちの上に共通して大きな重圧がかかっている、ということになる。
後者の代表はうちのお父さんとりっちゃんなんじゃないかと思うが、お父さんは中学生の時に見切りをつけてから三年間こういった話相手には選んでないし、りっちゃんの方は一度もこういう話題を振ったことがないので、ちゃんとはわからない。

その思いについての私のまじめさというのは、ひじょうに微妙なもので、私自身にもよくわからない。
そこらへんの匙加減をうまく捉えてくれるくらい気のきいた相手じゃなくちゃ、この話の聞き役は務まらない。

二つの条件を満たす人、それは和ちゃんだ。
和ちゃんがその人だということに気付いたのは、ようやくこの数年のことだ。
けれど、それに気づいてからは、私はいつもうまくいっている。
表面に発生した思いつきが徐々に成長していっても、それに焦ったりはしなくなった。
かえって、和ちゃんに話す時を楽しみにして、それが充分なところにまで成長するのを心待ちにするくらいだ。

たとえば、ひとけのない夕方の教室で。
つっかえながら話す私の言葉を、和ちゃんは聞き洩らさないように、けれど重苦しさを感じさせるような態度でもなく、ごく自然な姿勢で聞いてくれる。
時々茶化すようなこともあるし、まぜっかえしたりもする。
でもそういうのも、話をちゃんと聞いてくれてる、というのがちゃんと私に分かるようにと、必要な分だけしてくれているのだ。
やがて私が黙ると、静かになる。
和ちゃんはすぐには話さない。
たぶん、私の言ったことを反芻して、頭の中で勘案している。
それから一言ずつ、確かめるような慎重さで、私に言葉を返してくれる。
ぽつり、ぽつり、と、静かに言葉を紡ぐ彼女の声が、やさしい表情が、私には好ましい。
そんな時の彼女を思い出すと、おなかの辺りに生まれるじくじくとした感情に名前を付けるなら、恋と呼ぶべきだろう。



へんな自信がある。
私がいちばん和ちゃんのことをわかっている。

和ちゃんには家族がいて、私以外の友達もたくさんいて、みんなから好かれているのに、それでもそう思う。
私より和ちゃんのことを、わかってる人なんていない。
和ちゃん本人を含めても、そうだ。

知ってる、という意味じゃない。
和ちゃんのプロフィールとか、そういうことに関しては、人生のほとんどを親友として過ごしてきながら、あきれるほど知らない。
例えば、和ちゃんの生まれた場所とか、出生体重とか、そんなことは和ちゃんのお母さんの方がよく知ってる。
好きな食べものとか、そういうこと。それもよくわからない。
あの子はなんでも文句を言わずによく食べるから、嫌いな食べ物があるかすらもわからない。
お弁当のときとか、見ものだ。
草食動物が草を食べる時のような熱心さで、一定のペースで、黙々と食べる。
和ちゃん、という動物を観察してるようで、ちょっとおもしろい。
私が自分のお弁当から苦手なおかずを和ちゃんのお弁当にひそかに移動させても、文句は言わない。
やりすぎると注意されるし、トマトのヘタをあげたときはさすがに叩かれたけど。

私が和ちゃんのことをわかっていると思うのは、表面的なことじゃなくて、和ちゃんの心のうちがわのことだ。
和ちゃんには外側と内側がある。
野菜の皮と中身か、あるいは卵の殻とヒヨコみたいに。
もちろんそんなの、誰にだってあると人は言うだろう。
でもわかってないんだ。
和ちゃんのかわいいとこを見てるのは私だけ。
私だけだ。私以外知っちゃいけない。

例えば和ちゃんは泣き虫だ。

小学校の林間学校のとき、毛虫が背中に落ちてきたというので泣いた。
それから、その虫を男の子が眼の前で潰したので余計に泣いた。
その男の子は当時和ちゃんが好きな男の子だったので、そのことについてどう考えたらいいのかということを、その後一か月くらい暗い顔で私に相談し続けた。
私は「知るかい」という気持ちだったので、実際にそう返した。
あるとき和ちゃんはあんまりつらくなったのか、また思い出して泣いた。
非常に悪いことをしたという気がして、私は和ちゃんを慰めるのに一生懸命になった。
その時のことを話すと和ちゃんは恥ずかしそうにする。

傷つきやすくて、意外といつまでも悩みを抱えたりする。
非常にどうでもいいことにこだわる頑固なところもある。

私の話を聞いてくれたり、友達にアドバイスをしている時の和ちゃんは、やさしい母親のようでもあり、同年代の子どもには思えない。
でも、すごくナイーブな時の和ちゃんは、弱々しくて、保護したくなるようなオーラを放っている。
どうやらそのオーラが見えてる人は少ないようだ。
和ちゃんには悪いかもしれないけど、私だけわかっていればいいんだ。
こんな風に思う私は悪い人かもしれない。
実際にそう思ってしまうのだから、しょうがない、とも思う。
和ちゃんを一人占めしたい。
時々、残酷な気持ちになって、わざと和ちゃんを傷つけたくもなる。
実際にはそんなことしない。
そういうことを考えるだけでも、和ちゃんのことがかわいそうになって、かわいくて、すまない気がする。
ほんとうに申し訳ない気がする。
でもそんな時、強く実感する。
和ちゃんが好きだ。



和ちゃんの感じ方とか、私が一番よく知ってるなんて、傲慢な思い込みに過ぎないと感じることもある。
自分がひどく惨めで、和ちゃんにはふさわしくない人間に思える。
そういうときだけ、和ちゃんに触れるのが恐い。
近づくのもいやだ。
触れた指先から、私の中の黒い気持ちが伝わってしまうんじゃないかという気がするから。



それでも、はっきり、この気持ちが恋だと気付いたのは、最近のことだ。
戸惑いはしなかった。
それは新しく生まれた気持ちではなく、ずっと私の中にあったものだから。

「ねえ、和ちゃん」

日曜日の騒がしい街中で私は和ちゃんに話しかけた。
その日は計画して待ち合わせたわけじゃなく、本当に偶然で和ちゃんに出会ったのだ。
私たちはどちらから言いだすのでもなく、いつのまにか一緒にお店を見て回っていた。
お店を出てすぐのことだった。
そのころ私は例の「思い」にとりつかれていて、それは成長してずっしりとした重さをすでに持っていた。
私はふと、あれを話すのにちょうどいいと思った。
その日はいつもよりは上手に話せそうな気もしていた。
おかしなことに、その日の和ちゃんがどんな返事を私にくれたのかは思いだすことができない。
こんな大切な日なのに、大事なことを忘れてしまったことが、くやしい。

「こういうことさ、考えたことない?」

「どんなこと?」

「あのね、私、軽音部ってね、大好きなの」

「うん」

「ムギちゃんもりっちゃんも澪ちゃんもあずにゃんも、大好きな友達だし、部活に入って何かをするって、中学校の時はなかったから、毎日すっごく楽しいし、お茶もおいしいし。うーん、だけどね、へんだなー、ってすっごく最近思うことが……ううん、へんってわけじゃないんだけど。
 あのね、私が軽音部を好きだっていうとき、私が好きなのって、軽音部のみんななのか、それとも軽音部っ、ていう場所を好きなのか。どっちだかわかんなくなるんだ」

「その二つって違うのかしら」

「うん。例えばね、りっちゃんの代わりに、ぜんぜん別の知らない人が軽音部の部長だったら、どうなってただろうとか。たぶんやっぱり、その人のことを大好きになるかもしれない。それともその人はすっごく嫌な人で、軽音部は今みたいに楽しくなくって、私は軽音部に入部しなかったかもしれないけど」

「あまりにも『もしも』の話ね」

「そうなんだけどさ。逆に、私が軽音部に入らなかったら、ってことも考えるんだ。私じゃなくて別の誰かがギターを弾いてて、その子が私みたいにみんなと仲良くやってるって想像をはじめると、なんか、ちょっとだけ怖くなるよ」

「こわい?」

「怖い。私がみんなのことを好きなのは、私たちが同じ軽音部だからで、軽音部って場所に私がいなかったら、みんなと友達になってないかもしれない。ムギちゃんが軽音部にいなくて、ムギちゃんの代わりに別の人がいたら、その人のことを好きになって、ムギちゃんのことなんかどうでもいいのかもしれない。だとしたら、私が好きなのはムギちゃんという個人じゃなくて、ムギちゃんの立場ということになるし、そもそも好きになったのも、私が部員という立場を持ってて、相手が仲間だったから、ってことにならないかな」

和ちゃんは頷いた。
肯定の意味ではなくて、私の話を聞いている、というメッセージだった。

「軽音部だけじゃなくってさ、憂が私の妹じゃなかったらどうか、とか、和ちゃんが幼馴染じゃなかったとしたら、とか。好きって気持ちってものすごいふわふわしたものなんじゃないかなあ、って気がするんだ」

私がおおむねこんなようなことを話し終えると、和ちゃんはいつもの流儀で、少し沈黙した。
そして歩きながら考え込む和ちゃんの顔を見て、『ああ、私は好きだなあ、この顔が』と思った。
そしてその感情が特別なものだと知った。
今まで話したことと矛盾するようだが、この感情は確かだと思った。
和ちゃんとどんな出会い方をしたとしても、たとえ和ちゃんに出会ったのが今日このときだったとしても、和ちゃんがこんな顔をする子である限り、和ちゃんのことが好きだと思った。
街の喧騒が遠く聞えた。



戸惑わないということと、迷わないということは、しかし別のことだ。
こんな感情をどうすればいいんだろう?

こんなこと和ちゃんに言ったら、困ってしまうかもしれない。
私たちは仲がいいけれど、それは友達としてであって、恋人同士じゃない。
そもそも私と和ちゃんは、女の子だ。

もし私か和ちゃんのどっちかが男の子なら、こんなことは考えないで済むのかと思うと、気が暗くなる。
でも、男の子の和ちゃんなんて想像することが出来ない。
私だって男の子にはなれないし、なるつもりもない。
しかたがない、って言葉は嫌なものだ。
だけどしかたがない、って言うしかない。
しかたがない。
私は女の子だし、女の子の和ちゃんを好きになってしまった。

初めのうち、和ちゃんのことを好きだという自覚をもって、色々な和ちゃんを観察するのは楽しかった。
「好きだ」と思ってみると、いままで見ていた和ちゃんが急に鮮やかな光を放って見えた。
和ちゃんが私の視界の中で特別に輝きだした。
でもそれはやがてつらくなった。
あまりにも強い輝きで眼がつぶれそうな気がした。
和ちゃんという光に対して、私はあまりにも暗い感情を抱いてる。
そのことが汚らわしく思えた。
私は次第に和ちゃんから眼を逸らすようになった。

いつのまにか、何かにつけ和ちゃんに関連付けて物事を考えるようになった。
和ちゃんが欲しくなった。
和ちゃんにもこんな気持ちを抱いてほしい。
この思いをなくしてしまうか、この思いのままに行動するかしなければ、私は潰されてしまうだろう。

私が迷っているのは、結局和ちゃんに嫌われたくないからにすぎない。
この思いばかりは、待っていても自然に解消することはなさそうだった。
そして和ちゃんに話してしまうことも出来ない。



気がつけば、三年の夏休みが目前に迫っていた。
その日も和ちゃんと一緒に学校から帰った。
和ちゃんが隣を歩み、和ちゃんの肌が私の指の近くにあると思うだけで気が気じゃなかった。
なるべく考えないようにして、足早に歩いた。

普段通りにしようとは思っていたけれど、私はたぶん「浮足立っている」という状態だったろう。
和ちゃんと一緒に帰れるのは嬉しいし、けれど怖くもある。
和ちゃんも私もお互いに信頼しているという自負もあるが、一方で私は和ちゃんに隠し事をしてるし、私も和ちゃんのことを本当はわかってないかもしれない。
私も和ちゃんもお互いに好きだけど、私の好きは大きすぎるかも知れず、それに気づけば和ちゃんは私のことを好きでなくなるかもしれない。

和ちゃんは私のことを怪しんでるみたいだった。

「ねえ、唯。最近なにかあった?」

なにかはあったけど、そんなこと言えるなら悩んでないよ、とひそかに心の中で恨み言を言った。
私が否定すると、和ちゃんもそれ以上追及してこない。
安心したような、さびしいような気もした。
和ちゃんは怖がっているように見えた。
そんな和ちゃんがかなしく、かわいそうだった。
やっぱりだめかな、と思った。
もし私が想いを告げたりしたら、和ちゃんはきっとひどく弱ってしまうだろう。
そしてそれは取り返しがつかないかもしれない。
この思いはきっと告げるべきではない。

それはひどく暗い考えのようだが、かえって私の心を明るくした。
諦めようと思った。
この瞬間、今日で、和ちゃんへの思いで、ふつうの友情をはみ出す部分は、すべて捨ててしまう。
たぶん、それがいいよ。
私の心は爽やかになった。
神さまが悩む私に見かねて、知恵を頭の中に投げ込んでくれたかのようだった。

私は和ちゃんにその現象を教えてあげようと思ったほどだ。

ところが、その矢先だった。

「ぷ……ふふっ、あはははは」

和ちゃんは、いきなり、笑った。

あまりの唐突さに、あっけにとられて、頭の中がまっしろになる。
いったい何に笑ってるのだろう、と考えてもわからなかった。
不思議なことに、その原因のない笑いは私にも伝染して、次第に口元を緩ませ、やがて笑い声となって私の口からもあふれた。
言葉にできない瞬間だった。

心臓がどきどきした。
和ちゃんは普段あまり大きな声で笑うタイプじゃないけど、一緒に声を合わせて笑ったことくらい今まで何度もある。
今度に限って、どうしてこんなに印象深いのか不思議だった。
あまりへんなことに頭を使い過ぎていたため、私は少しおかしくなっているのかもしれなかった。

笑い終えた後も、感動は強く持続した。
私の体は自然に動いた。
頭で思ったり、言葉が喉の奥に引っ掛かったりすることはなかった。
私は当然のように和ちゃんの手を掴んだ。
触ることは恐ろしくなかった。

「座ろっか」



和ちゃんと別れ、家に帰って憂が出してくれたアイスを食べながら、その瞬間のことを検討した。
あんなにおかしかったのは、なぜだろうか?
なぜ、あれほど気持ちがよかったのだろうか。

私は、『好きだなあ』と思った。
そうだ、あの時、私たちは同じ時間を、同じ笑いを共有して、今までにないくらい心を通わせ合っていた。
私は、『好きだなあ』と思って、たぶん、きっと、和ちゃんも私のこと、『好き』でいてくれてる。

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「ん? なにが?」

「今、すっごく悪い笑い方してたよ。にやー、って」

いけない、いけない。
憂にあやしまれてしまった。
でも、表情のコントロールが出来ない。
嬉しい。

和ちゃんは、きっと私のことが『好き』なんだ。
でも今はまだそれに気付いてない。
こんなことを考える私は、やっぱり傲慢で、悪い人間だなあ。

それにしても、あの帰り道の、諦めようという悟りは危なかった。
もし、和ちゃんがあの時笑わなかったら、ほんとに諦めてたかもしれない。
あれは神さまの知恵だと思ったが、悪魔の誘惑だったのかもしれない。
それとも、あれは本当に神さまの知恵だったのだけれど、私が悪魔だからそれに従いたくないのだろうか?
それなら、それでも構わない。

和ちゃんを困らせてやれ、という気になった。
和ちゃんにこの思いをぶつけたら、どんな顔をするだろう。

(私の恋の矢は痛いから、和ちゃんきっと泣いちゃうなあ)
そう思った。
(でもきっと、振られることはないだろう。)

へんな自信がある。
私がいちばん和ちゃんのことをわかっている。

どうやら私は残酷で、傲慢で、悪い人間なようです。
今となってはそのことに罪悪感を覚えないので、なおさら悪いような気がします。
でも、いいんだ。

和ちゃんもそんな私のことわかってくれるだろうし、好きだろうし、もっと好きになってくれる。
あの時から、そう自信をもって思えるようになった。

和ちゃんに会ったら、言おう。
恋を教えてあげよう。
私はそう悪だくみをして、ひとりでにやけてる。
憂よ、今、悪い顔をしてるから見ないでおくれ。

どうしようもないよ。
私はどうしようもないよ。
この思いはどうしようもないんだよ。

みんな知ってくれればいいなあ。
和ちゃんも、憂も、この気持ちを味わえるといいな。
このどうしようもなさは、すばらしいなあ。

窓の外の蝉の声がやけに近くに聞えた。

おわり。

コメント